第19章 夏の大会
俊平が姿を現し、私はそれを見た瞬間に俊平のもとに駆け寄った。
「うおっ! 結じゃん」
いつもと変わらない俊平の表情。市大三という強豪を倒したのも当たり前のようで……。
「あ、の……。おめでとう、準々決勝進出」
「おう、ありがとな」
(……聞きたいことはいっぱいある。薬師高校のこと、薬師高校にいた怪物スラッガーのこと、俊平自身の怪我のこと)
それでも、今聞いたら敵情視察みたいになる。
「すげえだろ? あの轟ってやつ」
俊平の方から口を割ったので少し驚いたけど、私は小さく頷く。
「1年生なのにね。次の対戦相手だと思うと、少し怖いよ」
「………あいつ、小中学校では野球部に属してなかったらしくてさ。コミュニケーション取るのもへたくそだし、不器用なんだよ。けど、あんなすげえバッターを、こんなところで埋もれさせちゃいけない」
「?」
「こんな感情、今まで感じたことなかった。初めて、野球に使命感みたいなのを感じたんだよ」
俊平はユニフォームの胸元あたりをぐっとつかむ。
「次の試合、俺たちが勝つ」
(こんな俊平初めて)
少し怖くもあるけど、逆に嬉しくもあった。
「勝つのは青道だよ、俊平」
私がそう言い放つと、俊平は口元を歪ませる。
「激アツじゃん」
(そのアツいのが好きなんでしょ? 俊平は)
「あと、俺……次の試合に勝ったら結に言うことあるから」
「? なにそれ。今じゃダメなの? てか、負けてもダメなの?」
「そー。俺なりのケジメだからな。尚更負けらんねーよ! ……じゃあな!」
俊平は颯爽と去っていった。
(かっこよくなったなあ、俊平)
その姿をボーッと見ていると、背中に人の体重ほどの負荷が。
「先輩先輩!! 今の誰なんですか?! あの人かっこよくないですか?! 私、あの人のファンになりますーっ!!」
「鈴村さん……」
御幸のファンである鈴村さん。今のセリフは一体?
「鈴村さん、御幸のファンじゃなかったの?」
「女心は秋の空! 私、あの人のファンになります!!」
唐突過ぎてなんとも言えないけど、ライバルが減ってよかった……のかな?
「それでも! 薬師に勝ちましょうね! 先輩!!」
鈴村さんの太陽のような微笑みに、私は大きく頷いた。