第17章 春の大会 〜初陣〜
「なっ……なっ、何を言って……!」
予想外予想外。御幸の裏表のない笑みが他の誰でもなく、私に向けられるだなんて! それに、甘やかすって何をしてくれるの?
口をパクパク動かしてると、御幸の大きな手が私の頭に置かれる。
「何でも言ってくれよ。何が食べたいーとか、これが飲みたいーとか」
「御幸がそばにいてくれてるだけでいいよ」
「えっ」
「一人じゃ、寂しい」
思わず本音が漏れた。
御幸はそんな私を馬鹿になんかしないで、「そっか」と先程よりも私との距離を詰めてきてくれた。
私はもう一度ベッドに倒れ、御幸の手をとる。
(うわあ……)
手が全体的に黒ずんでいる。あちこちに豆があって、潰れてしまったもの、固くなったもの、新しくできたもの。
素振りを毎日続けている証拠なんだ。
「悪いな、汚い手だろ?」
「ううん、高校球児の手はこうじゃなきゃ。この豆は全部努力の結晶、汚いわけないよ」
彼を知れば知るほど、好きになっていく。
(大好き、だよ)
「木下……」
あれ、今、私……。
(御幸の腕の中にいる)
体を持ち上げられたのではなく、御幸は私に覆い被さり、背中に片腕を回してきたのだ。そして、もう片方の手は私の頬に。
「御幸……」
「木下、好きだ」