第3章 詰襟デビュー
放課後、私は御幸君に言われた通りに屋上へ行った。
「あのー、すみませーん」
人の気配がしなかったから、とりあえず叫んでみる。けれども、返事はない。
(誰もいないじゃん)
すると、グラウンドの方から野球部の声が聞こえ始める。もう、練習が始まるみたいだ。
(ここから見えるかな)
校舎から多少の距離がある野球部のグラウンド。見えたとしても、人が米粒くらいの大きさに見えるんだろうな。
「君が、一也の言ってた入部希望者?」
あれ、足元から声が聞こえる。
「ひいいあああ?!」
私の耳は間違っていなかった。
そう、私の足元で昼寝をしている男が!
私はスカートを気にして、さっさとその場から離れる。
男はゆっくりと起き上がってから、前髪をかきあげた。
「男子応援団部3年、松浦司(まつうらつかさ)」
黒髪短髪。学ラン。黒い目。なんでも黒づくしな人だ。
「私は1年、木下結です。まだ入団するとは決めていませんけど、御幸一也に言われてここにきました」
「そりゃそーだろ。今から入団テストするし」
「……入団テスト?」
「そー。ただで入れると思ったら大間違い」
いや、私はまだ入る決意すらはっきりしてないのに。早速テストとか言われても困る。
「だから、私はまだ決意すら……」
「まだ、運動に対する未練があるんだろ? なら、大丈夫。運動好きならいけるいける」
「意味、わかりませんよ……」
松浦先輩は屋上のフェンスに張り付いて野球部を見る。
「野球部を筆頭に、うちの学校のどの部活も一生懸命頑張っている。それこそ、文字通り必死にな」
「それは、わかります」
「うちの学校だけじゃなくて、他の学校の奴らも頑張ってる。そんな高校生達を俺は、心から尊敬しているんだ。そして、応援している」
松浦先輩の黒髪が風に揺れる。
「肩を壊した俺にとって、その頑張りはあまりに眩しくて、愛おしくて……見てて辛くもなった。けど、それ以上に応援したいという気持ちがあったんだ。お前は、どうなんだ?」
松浦先輩が私を振り返る。
「全力の高校生達を応援したいって、思わないのか?」
決まってる。そんなの決まってますよ……。
「応援、したいですっ……!」