第3章 詰襟デビュー
あーあ、言ってしまった。先輩の言葉に突き動かされ、私はついに本音を言ってしまった。
「なら、これから応援団部の一員になることをここから叫べ」
「……ここから、ですか?!」
うん、先輩の顔がマジだ。
(けど、やるって決めたならやるんだ)
私は唇を噛み締め、グラウンドの方を向く。
青春の汗と涙を流す人達を、応援したい。
私はもう、離脱した身だけど……力になりたい。
息を大きく吸い込む。両膝を曲げ、声が天に届くように……。
「青道高校1年D組、木下結! 本日をもって、男子応援団部に所属することをここに、誓いますッッッ!!」
私の精一杯の声。届いただろうか。
「青道高校3年、松浦司! 本日をもって男子応援団部を引退し、団長の座を木下に譲ることをここに誓いますッッッ!」
先ほどまでのだるそうな先輩とは打って変わり、学ランを風になびかせながら叫ぶその姿は、まさしく応援団であった……。
(え、今……団長って)
「松浦先輩?! 団長ってどういうことですか?! 他に部員いないんですかっ?!」
「いやー、すまんすまん。俺以外、誰もいないんだわ。勿論、1年も」
屈託無く笑う先輩に、全身から力が抜けていく。
「嘘……」
私が力なく屋上の床にへたり込むと、先輩は私の肩に学ランをかけてきた。
「まあ、詳細も聞かずに入るのも凄い話だけど。あれだけ大声で宣言したから仕方ないしねえ?」
(は、嵌められたああああ)
先輩の笑みが、悪魔の笑みに見えてきた……!
てか、最初から疑問に思ってたんだけど。
「先輩、うちの学校の制服って、男子もブレザーですよね?」
「そーだよ。応援団部入ってるせいで、1人だけ学ラン着て浮いてたからさ。やっとこの学ラン脱げるわー。あ、在部中は普段から学ラン着てるんだぞ、いいな?」
(よくねーよ!)
危なく先輩相手にタメ口を使いそうになるけど、堪える。
「一也も良い人材見つけてきてくれたわ。あ、応援団部の荷物は全部屋上にあるから好きに使って」
「え、あの……部室」
「新規の部活動に取られた。あと、女子応援団部とは仲悪いから。まあ、頑張れよー」
そう言って、松浦先輩はヒラヒラと手を振りながら屋上から去って行ってしまった。
これからどうしよう。