第16章 私と鳴
「鳴……?」
抱きしめられている、そう気づくまで時間がかかった。それほどにも鳴は唐突だった。
「俺、もう待てないんだけど」
「あの告白、まだ有効だったの?」
「当たり前でしょ!!」
鳴は頬を膨らませ、私のことを見下ろす。
「待ちすぎて2年になっちゃったじゃん、俺ら。結、俺じゃダメ?」
大会前に何を言ってるんだ、私達は敵同士じゃないか。
(それに、私は御幸が好きだ……。なら、このことをちゃんと鳴に伝えて、断らなきゃ)
「俺たちが敵同士とか、そんなことで身を引いてるんじゃないよね?! たとえ彼女の通ってる学校でも、俺は容赦なく叩き潰すからね! 試合で応援しろとも言わない」
「!」
「他に好きな人がいるなら仕方ないけど、俺は2番目でもいい。過程なんてどうでもいいよ、最後に俺が1番になればいいんだから」
鳴の言葉が私の心を揺さぶる。だって、こんなに熱い想いを告げられて、心が動かずにいられるだろうか。
「それでも私は、鳴とは付き合えないよ」
「……どうして」
「御幸が好きなの」
言った。ついに、言ったよ。
鳴は困ったように笑った。
「なんか、そんな気はしてたんだけどね。改めて言われると結構辛いかも」
「ごめん……」
「でーもさ、一也のやつ、鈍そうだし、冷たそうだし? あいつ好きになると大変でしょ!」
「ご察しの通りで返す言葉もございません」
「あーあ。完全にふられちゃったじゃん、俺」
鳴は私から離れ、頭の後ろで手を組む。
「なら、俺を1番の友達にしてよ。一緒に遊びに行ったり、連絡取ったり、悩み相談したりできるような」
「わ、私からもよろしくお願いします! 鳴はなんか、話しやすくて、こんな友達いればいいなって思ってたから」
「……ありがと、結。最後にもう1回だけ、抱きしめてもいい?」
鳴の切なげな目を見ると、頷くしかできなかった。
鳴は私を正面から抱きしめ、顔をうずめてきた。
(……ごめんね)
さっきよりも、私を抱きしめる力が強かった。そんな気がした。