第16章 私と鳴
土曜日、私は後輩二人を連れて稲城実業に挨拶回りに行った。
「先輩っ! 俺、感動です! ここが強豪、稲城実業のグラウンドなんですね!!」
「先輩! 女テニに可愛い子いますよ! 声かけてきていいですか?!」
佐々木君も新島君もそれぞれ興奮した様子。今日は快晴で、運動部にとっては絶好の練習日和だろう。
「おお、ついに後輩が入ったか」
稲城実業の応援団の皆さんのご登場。黒づくめの集団に後輩二人は背筋を伸ばす。
「1年、佐々木太郎ですっ」
「同じく1年、新島リューマ」
挨拶回りだけのつもりだったけど、稲城実業応援団部のご厚意で、一緒に練習させてもらえることになった。
(お互いに春の大会が近いのに、一緒に練習させてもらえるなんて、ありがたいなあ)
それに、後輩二人はまだ何も知らない1年生。
(私が全部やりきらなきゃ)
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練習が終わってから、私は鳴のピッチングを陰ながら見ていた。
ちなみに、後輩達は……
「せんぱ、い。あのォ……練習、終わったんで、先に帰らせてもらっても……?」
「……シンドイっす」
ということで、二人とも先に上がった。
(まあ、初めから飛ばしてたしなあ。よく保った方だよ)
夕日をバックに投げ込む鳴。そのピッチングフォームは美しく、ミッドの音は心地良い。
「……鳴」
ワガママで子供。俺様でナルシスト。そんな性格も練習による自信からうまれてくるんだと。
「あ、結!」
鳴は私に気付いたようで、愛想よく手を振ってくれた。
私もそれに答えて手を振る。
「練習終わるまで待っててよー! あと10球で上がるからー」
「……うん」
結局、あの時告白されてから何ヶ月経ったことやら。保留とか言って、すごく待たせてしまっている。ていうか、まだ有効なのかな?
(さすがに、もう私のこと好きではないか)
そんなことを考えながら待っていると、首にタオルをかけた鳴が駆け寄ってきた。
「久しぶりっ」
「久しぶりだね。全然こっちに練習きてなかったから……。……?!」
目の前に鳴のユニフォームが広がる。鳴は私の肩に顎を乗せ、背中に手を回した。
「……ずっと、会いたかった。いつまで待たせんのさ……」