第12章 進級までの5ヶ月(バレンタイン編) ※主に御幸side
(待て、何で……)
「何でそんな格好して男の前にいるんだよ?! 誰だそいつ?! もしかして家族か?! いや、家族だとしても良い年してるんだからそんな格好で家の中歩いたらダメだろ!!」
と息継ぎもせずに思ったことを口に出してしまった。
画面越しの木下は困ったように笑う。
『家族じゃないよ、同い年の幼馴染』
『うーっす』
その言葉を聞いた瞬間、何か胸が締め付けられるような……苦しいような、そんな感覚に陥った。
(幼馴染でも、そんな深い関係……。木下の彼氏、なのか?)
『どうしたの? 御幸君から電話なんて、珍しいね』
俺の気持ちを何もわかっていない木下は、あたりも触りもないことを話してくる。
俺がいつ電話したっていいだろ。
「付き合ってんの?」
『え?』
「そいつと、付き合ってんの?!」
あー、ダメだ。なんかすっげーイライラしてきた。心なしか言い方もきつくなったし。
(嫌われるかもな)
『だから、そんなんじゃないよ! ただの幼馴染! 今日はこいつがバレンタインねだりに来ただけ!!』
『は? ねだってねえし』
『じゃあ、明日一緒に作ろうか? ねだってないんだもんね』
俺も欲しい。なんて言ったら、なんて反応するだろうか。
(倉持にあげるんだもんな、俺だって……)
「あのさ、俺にも……」
そう言いかけて口をつぐむ。
今まで、言わずとももらえてきたものを自分で頼むのも変な感じだ。
(くそっ……)
『ん? どうしたの?』
恥なんかじゃねえ。
怖くもなんともない。
この感情もおかしくない。
幼馴染を見たとき、倉持の嬉しそうな顔を見たとき、哲さんとバッティングセンターに行ったのを知った時、鳴から告白されていたことを知った時
(イラついたのは嫉妬の証拠)
「俺にも、バレンタインくれよ」
(俺はこいつが好きなんだ)
どこまでを望むかはわからないけど、今は目先のものにこだわってやる。
『いいよー! あ、せっかくだし一緒につくる? 明日、私の家においで!!』
あれ、最初からハードル高くね?