第2章 3度目の正直になれなかった私は
「そう、だけど……」
どうして、そんなことを聞くのかわからない。
御幸君だって、同じクラスなら知っているはずだ。
私が、高校に入って、入部一週間でソフトボール部をやめたことを。
「辞めた理由って、怪我?」
「そうだよ……」
中学の時、私は腰を痛めた。確か、中学3年の夏だったかな。痛めてからすぐに引退だったから、その時は大したものだとは思っていなかった。
けど、学校の体育祭で、リレーを走った時に痛みが再発。二週間経っても痛みがひかないので、医者に行った。痛みの原因はわからなくて、わかったのは私の左足の筋肉が衰えていたということ。
左側の腰を痛めてから、無意識に庇っていたらしく、右足ばかりを酷使していたようだ。
その日から、私は運動をやめた。
学校の体育は全て手抜き。柔道の授業に至っては、見学していた始末。
しばらくして、高校入学。最初の体力テストで、久しぶりに本気で走った。
体が動かなくなった。
二足歩行が困難になって、ほぼ四つん這い。
今度は地元で評判の整形外科に行った。すると、腰の痛みの原因は椎間板ヘルニアだった。医者は「ブロック注射」と言って、ヘルニアに効く注射を打ってくれた。
今までの怪我が嘘のようで、私の腰は治ったんだ……そう思って、ソフトボール部に入った。けど、わずか3日で痛みが再発。
「……私は、部活を辞めた」
1度目は中学3年の夏。2度目は体育祭。3度目は体力テスト。そして、部活でまた、私の腰は保たなかった。
「馬鹿みたいでしょ。何度も治ったと錯覚して、何度も信じて! 結局、治らないんじゃない。後は手術しかないの。でも、運動さえしなければ、この腰は痛まないの!」
「……そう、だったのかよ」
御幸君は申し訳なさそうに私を見る。
「そんな目で見ないで。御幸君は健康体なんだから。……私、もっと大きな怪我してればよかった。それなら、運動に対して諦めつくしさ」
なんで、こんなことを御幸君に言ってるんだろ。親友でも、彼氏でも何でもないのに。
「大きな怪我すればよかったなんて、冗談でも言うな」
「!」
突然冷たくなった御幸君の瞳。けど、すぐに冷たさは消えて、私のことを真っ直ぐ見る。
「俺、木下が野球に興味あるんだと思ってたから。……応援団、やってくれよ」