第2章 3度目の正直になれなかった私は
早めに上がるとは言ってたが、どうにも信用ならない。
中学の時のソフトボール部は、休日練習は午前で終わりだった。けど、コーチの話が長かったせいで、14時上がりもいいところだ。
(でもまあ、強豪校の野球なら、時間くらいきっちりしてるもんか)
遠目に野球部を見ていても、他の公立高校とのレベルの差は歴然としている。
まず、表情が違う。練習熱心なのはどこの野球部もそうだろうけど、覚悟を決めたような……そんな顔をしている。それが、野球留学を推進している故なのかもしれない。
地元を離れ、野球をする。……本当にすごいことだ。
なんて考えている間に、保冷剤は生温くなり、保冷剤としての役割を果たさなくなっていた。
気がつけば、プレハブの窓に映る空もオレンジ色に染まっている。
どれだけの時間、私は野球を見ていたんだろ?
「悪い、待たせたな」
御幸君は練習着のまま、ここに入ってきた。
「汗臭かったらごめんな。まあ、一応制汗剤くらいは使ったんだけど」
なんて言いながら、汗の匂いを気にしている御幸君が可笑しくて、私は思わず笑ってしまう。
「ううん、大丈夫だよ。……というか、話って何でしょう?」
「外で話さねえ?」
「あ、了解です」
なんともぎこちない会話。けど、心地良い。
御幸君は私の歩調に合わせてゆっくりと歩いてくれる。けど、彼は一体どこに行こうとしているのだろうか。
「あの、どこ行くつもり?」
「寮の自販機の近くにベンチがあるから、そこで話そうかと思ったんだけど」
「あ、はい。オッケーです」
御幸君が私と何を話したいのかわからないけど……。とりあえず、自動販売機の前に着いた。
御幸君は自販機の前に立ってから、私を振り返る。
「コーヒー飲める? それとも、紅茶?」
(奢ってくれるというのか?)
けどまあ、奢ってもらう義理もないわけだし。
「そんな、話すだけだから。飲み物なんて……」
「待っててもらってたから」
「……カフェオレで」
「りょーかい」
御幸君の巧みな話術に負け、私はカフェオレを受け取る。ちなみに、小銭を取り出そうとしたら御幸君に目で制された。
私と御幸君はベンチで隣り合わせになって座る。
「木下って、元ソフトボール部だよな?」