第11章 進級までの5ヶ月(クリスマス編)
伊佐敷先輩のキャラが地面に崩れ落ち、「再起不能」の文字が画面を横切る。そして、四分割されていた画面は縦に三分割に変わる。
「遅くなってごめん」
崩れ落ちた伊佐敷先輩のキャラの背後に立つのは、フードを被った男。
「小湊先輩……!」
チャイナ女はフード男に駆け寄ってハグをする。
その瞬間、この部屋に集まった人達が口々に「ずりーぞ!」と叫び出す。
『俺の存在を忘れんなよ!!』
と声がしたと思うと、散弾が近くに放たれた。チャイナ女とフード男は離れ、散弾の飛んできた方を睨む。
「このゲームのやり込み度ナンバーワンは俺だからな」
倉持の選択キャラクター、迷彩服の男が銃を構えて現れたのだ。
「倉持! 飛び道具は卑怯だよ!」
「うるせえ! 色目使う方が卑怯だろ!」
小湊先輩が私の隣に移動してきて、耳元で囁く。
「倉持は俺一人で倒すから。君は安全なところに逃げてて」
「でも、先輩……」
「素手の戦闘キャラは足手まといだよ」
嘘つき……。小湊先輩は私(チャイナ女)を殺させないためにも、逃げさせるつもりなんでしょう?
「いや、ゲームだからこれ。シリアスになりすぎじゃね?」
という御幸君の声は無視。
「亮さん、俺の実力をわかってるんすよね? なのに、一人で戦うとか……どういうことっすか」
「お前に勝てると、思ったからだよ」
「……勝負っす!!」
二人のコントローラーさばきはさすがの一言だ。装填時間の短い倉持の射撃。鎌を使って壁まで登ってしまう小湊先輩の器用さ。
しかし、銃と鎌では小湊先輩の方が不利だ。
『ぐっ!?』
小湊先輩のキャラが被弾した。
「よかった。これが最後の一発だったんすよ、亮さんやりますね」
迷彩服の男が背を向けた瞬間、フードの男が飛びかかった! そして、二人は船の端まで転げる。
「亮さん、まさか?!」
「これはタッグバトルだよ、倉持」
「くそっ……」
二人のキャラが同時に海に落ちた。そして、海の上に「再起不能」の文字が横切ってから、チャイナ女の画面に「winner」の文字が浮かぶ。
「ほら、勝ったでしょ」
小湊先輩の笑みに、思わず涙が浮かぶ。
「それでも、先輩が……っ」
「大丈夫、俺は木下さんが生きてればそれで」
「これ、ただのゲームだろ?」