第2章 3度目の正直になれなかった私は
連れて行かれたのは、野球部のプレハブ小屋。聞こえはイマイチだが、なかなか快適な場所だ。部室とは別にこのような建物がある時点で、野球部は特別なんだなと感じる。
「ちょっと待ってろ」
御幸君は冷蔵庫の中を何やら漁っている。冷やしてある湿布なのか保冷剤なのかはわからないけど。
(うちの野球部、強いもんね)
私立青道高校の野球部。私立の野球部の中でも、特に野球留学を推進していると聞く。
「野球留学」というのは、地元から遠く離れた野球の強豪校まで野球をしに行くことをいう。まあ、高校側が良い選手を地方までスカウトしに行くんだけど。
青道は東京都にある学校だが、時折関西弁を話す生徒も見かけたりした。
そんな青道高校だが、確かに強豪校ではあるけど近年はなかなか甲子園に出場できずにいる。
なんでこんなに詳しいのかというと、やはり自分の学校の野球事情は気になるさ。元ソフトボール部だもん。守備走塁型スポーツは大好き。
「これ使って冷やして」
御幸君は保冷剤をタオルで包んだものを渡してきた。
「ありがとう」
左手に当てると、徐々に冷やされていってすごく気持ちいい。
「何でまた、野球部見てたんだよ?」
御幸君の問い。え、「また」って……。
「いつも見てるの、ばれて、た?」
ただの興味本位だよ。うん。いつも興味本位で野球部を見てたんだけど……。
(まさか、見られてたなんて!)
「まーな。女子生徒が1人でこっち見て立ってたら気になるだろ? 先輩達だって首かしげてたぜ?」
「……ごめん」
「いや、謝ることじゃないんだけど」
しかも、先輩達にまで見られてたとは!
(夏の暑さで溶けてしまいたい!)
手よりも顔に保冷剤を当てた方がいいんじゃないかってくらい、私の頬が火照る。
「練習終わったら、色々話してみたいんだけど。木下と」
「え」
御幸君はニカっと笑う。
「今日の練習はいつもより早くて、5時までなんだよ。だから、それまで手冷やして待っててくんね?」
「う、うん」
流れで返事をしてしまった。
御幸君は返事を聞いた瞬間に、プレハブ小屋を飛び出して行ってしまった。
(待つしか、ないか)