第10章 進級までの5ヶ月(御幸誕生日編)
「御幸君のアホぉ」
「はあ?」
本人は気づいていないけど、そんな言葉を言われてドキドキしない女子はいない。
私だって、一応女子だ。しかも、御幸君に恋をしているかもしれないのに。
「何でもないよー」
私と御幸君は他のカップルと距離をとって座る。そして、それぞれお昼ご飯を広げて手を合わせる。
「「いただきまーす」」
私が持参している水筒に手を伸ばすと、何かを思い出したらしく御幸君が声を上げる。
「やべー! 飲み物買うの忘れてた! 俺、ちょっと買いに行って……「これ」
御幸君に先ほどの野菜ジュースを投げ渡す。
うまいことキャッチした御幸君のキョトンとした顔がなかなか面白い。
「少しは栄養バランスよくなるんじゃない?」
「……ハハッ。気がきくな。遠慮なくいただきます」
飲み口にストローをさす御幸君を見て、心の中でガッツポーズをする。どうだ、私だって気の利く女子なんだぞ。
「秋の大会……あの成績だと、春の甲子園には行けねえと思う。おそらく、市大三高が選ばれる」
ふいにつぶやく御幸君。
「……そうだね」
「春は関東大会までしかねーから……。夏の大会で甲子園にいく」
御幸君の目はまっすぐと青空に向いている。まるで、彼の紡ぎ出した言葉が全て、この青空に対しての誓いのようにも思える。
「けど、このままじゃダメだ。新入生に期待するわけじゃないけど、投手層が薄い。俺達みたいな私学はもっと投手を集められるはずだ」
「投手もそうだけど、次の大会から、私がみんなを応援します。たとえ来年、男子応援団の部員が私だけでも、生徒が応援に来なくても……私だけは、必ず応援席で声を届けるよ」
これも誓いなのかもしれない。御幸君とこの空に誓う、私の決意。
「あと、御幸君誕生日おめでとう。たいしたことない誕生日プレゼントになったけど、あの、ちゃんと心からお祝いしていますので……」
御幸君は私の手の上に自分の手を重ねた。
「!」
固くてゴツゴツとした手。男の人の掌は固いっていうけど、彼の場合はバットを常に振っているから更に固い。
「さっきの木下の言葉が聞けた。それだけで最高の誕生日プレゼントだぜ」
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次はクリスマス編!
主人公が2年になるまでの間、しばらくこのような短編でつないでいきます。