第10章 進級までの5ヶ月(御幸誕生日編)
けど、御幸君の好きなものって一体なんだろうか。
私は頬杖をつき、黒板の数式を見つめながら考える。
(プレゼントを用意するにしても、趣味とかわからないし、好きな食べ物も知らないし……)
御幸君の好きなものは野球。特技は野球。趣味野球?
(野球しかないじゃん!)
それならあれか。バッティングセンターで私がお金払って、打ちたいだけ打たせてあげるとか?
仮にも女子高生である私。そんなプレゼントをするのもなかなか気がひける。
休み時間になり、私は鳴に「御幸君の好きな食べ物とか、趣味ってわかる?」とメールを送信する。
(御幸君……)
教室にいる御幸君を少し覗き見する。
何やら考え込むようにしてスコアブックを読んでいる御幸君。そんな姿を見ていると、彼に野球以外のものをあげても無駄な気がしてきた。
携帯のバイブ音に、私はメールボックスを開く。
『一也の趣味は野球! 好きな食べ物は特にないみたいだよー! そっか、今日は一也の誕生日だもんね! 俺も後で一也にメールしなきゃ笑』
とのこと。……つまり、何もわからない。
「あー……もう、わかんないよーっ」
「なーにが分かんないわけ?」
私が頭を抱え込んでいると、いつも通り余裕そうな笑みを浮かべた御幸君が。
「……あの、誕生日……」
「ん?」
「み、御幸君の誕生日に何をあげたらいいのかわからなくて」
(て、何で張本人に相談してるんだ私っ?!)
すると、笑い声が頭上で起こる。
「気持ちだけで充分だぜ。サンキュ」
それじゃあ、私が嫌なんだよ。
誕生日という特別な日じゃないと、私は彼に何もしてやれない。
「お、お昼ご飯奢るよっ!」
私は勢いよく席を立ち上がり、御幸君の手を掴む。
「……んじゃ、それで頼むわ」
「うん!」
「あ、あと」
御幸君は頭をかきながら私から目をそらす。
「屋上で、2人で飯食おう」
「あ、うん……」
この上なく嬉しいお誘いですが、なんだか倉持が可哀想になった。