第10章 進級までの5ヶ月(御幸誕生日編)
11月17日。秋季大会から2ヶ月ほど経った。
(今日も野球部は頑張ってるんだな)
いつもより早く学校に登校してきた私。特別な理由があるわけではなく、ただの気まぐれ。
グラウンドで活動している野球部を遠目に見ながら、校舎に入っていく。
(青道は、春の大会までは何もないもんね。オフシーズンってやつ?)
高校野球には春と夏に甲子園大会がある。
夏の甲子園は知っての通り、47都道府県のそれぞれの頂点の学校が出場することができるもの。実に分かりやすい。
けど、春の甲子園……通称、春の選抜はなかなかわかりづらいもので。
東京都のうちからしたら、秋季の都大会の1位と2位が関東大会に出場することができるのが秋の大会。秋の大会は関東大会までしかない。
その都大会と関東大会で好成績を収めたチームが春の甲子園(選抜)に選ばれる。つまり、県で優勝しても甲子園に行けるのかわからないってこと。一つの県から一校も出場できない場合もあるし。
青道は秋季大会で思うように勝ち進めなかったので、おそらく甲子園には行けないだろう。
一応21世紀枠などという枠もあるけど、大体は公立高校が選ばれるので、私立のうちには縁がなさそうだ。
(つまり、また甲子園には行けないってこと)
青道は打撃主体のチームだ。けど、やはり心配されるのは投手力。エースの丹波さんがまだ頼りない印象がある。
(御幸君、丹波さんに嫌われてるっぽいし)
御幸君は先輩が相手でも容赦なく感じたことを言うから、なかなか嫌われやすい。
(甲子園、一度でいいから行ってみたいな)
朝のホームルームが終わった瞬間、私は倉持に腕を引っ張られる。
「うわっ、え、何?」
「いいから黙ってついてこい!」
無理やり廊下に連れ出されたところで、私の腕が解放される。
「何、どうしたの?」
すると、倉持は口を尖らせて自分の髪の毛に手を伸ばす。
「あの、よぉ……。きょ、今日は御幸のヤローの誕生日らしいから、よ」
「御幸君の?」
倉持に言われて初めて知った。
「私、何も用意してないよ! どうしよ」
「俺も、あいつの趣味分かんなくて何も用意してねえんだよ。けど、一応チームメイトだし」
倉持の優しさになんだか心が温まる。
「そうだね、何か用意しなきゃ」