第9章 野球部秋の新人戦! ……の前に
休日恒例の稲城実業への遠征。
「学生注目ーっ!!」
応援の一つ、「学生注目」。基本的に「学生注目」から始まって、野球の場面に応じて観客に問いかける方式の応援だ。
「勝つのは私達、青道高校だ!」
と私が叫び、ひたすら観客が「そうだ!」と叫ぶ応援。ただの言葉に思えるけど、応援団と観客が団結できるから私は好き。
拳を青空……ではなく、曇り空に突き上げる。
(やな天気。降り出しそうだな)
案の定、午後から大雨。
応援団部の練習は午前だけなんだけど、これじゃあ外に出る気にもならない。
稲城実業高校の1年生の教室の窓から、雨の様子を伺う。……帰れない私の待機場所がここってことだ。
(そーだ)
スマートフォンで天気を確認すると、台風が近づいているらしい。
(天気確認しとけばよかった)
お弁当はもってきてるけど……。
電気をつけていないため、外の厚い雲のせいで教室は薄暗いし、無駄に広い場所で一人になるのもなかなか寂しい。
「結!」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、教室のドアが勢いよく開く。
「成宮君?」
アンダーシャツ一枚の成宮君。
私の近くの席に腰かけ、ニッと笑う。
「雨降ったし、来週から試合だから早く上がれたんだよねっ」
「そ、そうなんだ……ていうか」
私はカバンからジャージを取り出し、成宮君の肩にかける。
「練習後にアンダーシャツ一枚だと風邪ひくよ?」
「これくらい平気だし! ……まあ、ありがとう」
おとなしく私のジャージに包まる成宮君が可愛らしい。
「学ラン着てるのに、ジャージなんか持ってきてるんだ?」
「筋トレとかがあるようなら、学ランよりジャージのほうがいいかと思っただけだよ。……そういえば、この間のメール」
どこか出かけるのに付き合ってほしいというような内容のメールをもらっていた。まあ、雨が降ってるから出かけられないだろうけど。
「いや、勉強に……付き合ってほしくて……」
「……得意教科は?」
「世界史と地理!」
「苦手教科は?」
「暗記できないやつ!」
(完全な文系か)
困った、私も文系なんだけど。
「卒業後はプロ入りするつもりだけど、卒業する為にテストで点とらなきゃヤバいんだって!」
……呆れるほどポジティブだな。