第2章 3度目の正直になれなかった私は
気付いた時にはもう遅くて、鈍い音と激痛が私の手のひらから全身にかけて走り抜けた。
「っ!!」
声にこそ出さないように気をつけるが、表情だけはどうしようもなかった。
(ああ、今……私、すっごくブサイクな顔してるんだろうな)
こんな所、誰かに見られていても恥ずかしいだけだしボールは野球部の方に転がし、さっさと帰ろうとした……のだが。
「木下さん?」
呼び止められ、私は歩みを止める。
(私のこと知ってるってことは、クラスの人かな)
ゆっくりと後ろを振り返ると、泥で汚れたユニフォームにスポーツサングラスが特徴的な男子。髪の毛は癖っ毛なのか、外側に少し跳ねている。
「御幸君、だよね?」
そう、私は彼を知っている。というか、同じクラスなんだけど。
御幸一也(みゆきかずや)。身長は私より10センチくらい高いのかな。普段はメガネをかけていて、なかなかのイケメンの部類に入る。
だが、野球部の人とばかり話しているところを見ると、社交的な人ではないんだなあと思った。あ、これはただの見解ね。
「あの、さっきボール飛んでっただろ?」
「あ、はい。どーぞ」
私はボールを受け止めた左手でボールを差し出す。
「……」
御幸君はしばらく私の手を見つめてから、ボールではなく私の左手首をつかんだ。
「えっ? ちょっと……」
突然ことに戸惑う私。そんな私に御幸君は悪戯っぽく微笑む。
「絶対痛かっただろ! とりあえず、冷やしに行くぞ」
有無を言わせず、御幸君は野球部の方へ私を引っ張っていく。
(え、保健室とかじゃないわけ)
でもまあ、痛いのは事実であり。うん、自業自得ではあるけどさ。
私は御幸君に逆らわず、野球部へと歩をすすめた。