第6章 学校生活の変化
「図書券か商品券か、バッティングセンターの回数券か好きなものをお選びくださ「回数券でお願いします」
店番の女の人が言い終わる前に喋る結城先輩に思わず笑ってしまいそうになる。
「よかったですね、先輩」
「……ああ。これでまたここに来やすくなるな」
あまり表情が豊かでない先輩だけど、今は心なしか嬉しそうに見える。
すると、店番の女の人がニコッと笑う。
「そうだ、もし宜しければこちらのストラップお使いになられます?」
女の人が出してきたのは、野球ボールのストラップ。しかも、二つ。
「店の余り物なんですけど、貰っていただけたら嬉しいのですが」
「なら、いただきます。ありがとうございます」
結城先輩がストラップをつける姿が想像できないのだけれど。
「よかった! 大丈夫ですよ、男同士で同じストラップをつけるのも全然悪くないですから! むしろ、男同士の友情って感じでいいじゃないですか!」
と言われ、自分の外見が男子であることを改めて悟った。
「いや、この人は……」
「俺、嬉しいッス! 先輩とストラップがお揃いだなんて!」
もういい。この際、男子を極めよう。
突如男口調になった私に驚く先輩だが、察してくれたのか小さく頷いた。
そして、バッティングセンターの外で。
「本当にいいのか? 男子などと名乗って」
そういう先輩の顔は少し悲しそう。
「そんな顔しないでくださいよ。自分で決めたことなんで。大体、学校ではみんな私が女子なことを知ってますし! ……それより、私の方こそ、先輩と同じストラップ付けてもいいんですか」
「それこそ、勿論良いに決まっているだろう」
結城先輩との寄り道。先輩のことを少しは理解することができたのかな。
家に帰ってから、カバンについた野球ボールのストラップに手を伸ばしながら、そんなことを考えているのだった。