第6章 学校生活の変化
一応部活の先輩でもあるので、私は背筋を正して一礼する。
「お前、今……女の顔してた」
そういう松浦先輩の表情は険しい。
自分の表情なんて分からないものだけど、他人からそう見えてるみたいで。
「はあ。よく意味が分からないのですが、それって悪いことなんでしょうか」
「悪いに決まってる。いいか? お前は男子応援団部だし、平等に選手を応援しなきゃならない。つまり、青道の野球部と惚れた腫れたをしてはいけないってことだ」
バッサリと言い切る先輩に、私は一つ疑問を持つ。
「先輩の言い方では、他校ならOKともとれますけど」
「他校なら、自分の中で分別はつくだろ。けど、同じ学校の生徒の場合だと、知らずのうちに贔屓が生まれる。だから、青道野球部との恋愛は禁止」
なんだか気にくわない理由だけど、先輩の言うことなら仕方ない。というか、応援団の掟的なものなのだろうか。
「それって、代々伝わってるものなんですか?」
私の問いに、先輩は腕を組みながら壁にもたれかかる。
「いや。俺が考えただけだ。……何せ、女子がこの部活に入るのは開校以来初めてだからな。正直、俺もどうしてやればいいのかわからない。だから、最初に釘を打っておこうと思ったわけだ」
なんだか意外だ。私が初めてだなんて。
「あ、あと。今月の半ばから高校野球の秋大会が始まるが、まだ応援団としては活動するな。準備する時間が足りないから、お前のデビューは春だ。秋大会は客として試合を観にいって、青道野球部の様子や他校の応援を観てくるといい」
「はいっ」
それだけ言うと、先輩はフラフラとした足取りで私の元から去っていった。
その姿を見ると、元応援団長とは信じがたい。
(けどまあ、気にしてくれてるんだ)
たまたま会っただけだけど、私の心配をしてくれていることが嬉しかった。
(てか、女の顔って……)
私自身が女なんだから、女の顔してるのは当たり前じゃないか。
「失礼な先輩だなっ」
先輩と話し終えたら、どうして私は教室を飛び出してきたのかすら忘れてしまっていた。
(ま、いいか)
9月は学校行事も忙しいけど、野球の秋大会も始まる。
(観客として行ってみるのも、確かにいいのかもしれないね)
東さんを筆頭とした3年生が引退してからの新体制。
どのようなチームになるのか楽しみだ。