第6章 学校生活の変化
避けられるタイミングでもない。
私は一発殴られる覚悟で目を瞑っていた。
(あれ)
予想していた衝撃がなかなか来ない。
そっと目を開けると……
「離せよ御幸!」
「離さねーよ。それとも、もっと痛くしてやろうか?」
御幸君が男子の手を強くひねり上げているのだった。男子生徒の顔の歪みようからして、相当痛そうだ。
「女子に対していう冗談にしてはいきすぎているし、女子に手をあげるなんて男のすることじゃねえよ。同じ男として恥ずかしい」
御幸君は突然男子の腕を解放する。
男子は床にへたりこみ、腕をさすりながら御幸君を睨みつけた。
「野球の才能があるからって調子に乗るなよ。所詮、てめーはクラスでぼっちじゃねーか!」
「いいんじゃね? 無理して笑えないジョークを言ってまで、クラスの中心であろうとすることより、よっぽど気が楽だぜ。……行くぞ、木下」
「あっ」
御幸君に腕を引かれ、私は教室を出た。
教室を出てからも御幸君は早足で、階段の踊り場で歩みを止めた。
お互いに話すわけでもなく、沈黙の時間が続く。
(助けてくれたんだよね)
表情が影になって見えない御幸君。彼が今、どんな心境なのかはわからないけど……。
「助けてくれて、ありがとう」
「……ああ」
「青道は運動部が盛んだから。入部してすぐに辞めた私なんて、目の敵にされても仕方ないと思う。けど、悔しかったからさ……!」
自分では真剣に取り組んでいるつもりの応援団。それを馬鹿にされたことは、悔しくて。
「巻き込んだのは俺だし。悪いのも俺だ」
「そんなこと言わないで! 私、応援団頑張りたいと思ってるの! ソフトボールと同じくらい、頑張れそうなの! 御幸君が誘ってくれたおかげだよ……! いっぱい練習して、かっこよくなって、誰にも馬鹿にされない……かっこいい部活だって思われるように、頑張るから!」
その時、御幸君の表情が露わになる。
笑っているような、泣きそうな……そんな表情だった。そんな御幸君を見ていると、胸の鼓動が高鳴る。
「御幸君?」
「こっち見んな!」
御幸君は片手で顔を押さえ、片手で私を制する。
「どういうこと」
「早くプール行けよ、遅刻するぞ」
「それ、御幸君も同じじゃ」
「いいから!」
御幸君に言われ、私は御幸君に背を向けた。