第5章 高校球児達との出会い
不意に呼び止められ、私は後ろを振り返る。
「結! うちの高校まで来たのに、俺のピッチングも見ないで帰るわけ?!」
と言うのは成宮君。
奥の方から「見せびらかすもんじゃねえぞ」と先輩の声が聞こえるが、成宮君は気にしない。
「敵チームの学校の人に見せてどーすんの……」
「そーゆーの関係なしっ! サービス精神旺盛でいかないとねっ」
成宮君の笑顔には裏がない。今見ている時点では、ね。
「じゃあ、一球だけ捕りたいな」
私の言葉に成宮君は首をかしげる。
「ごめん、俺の勘違いかもしれないけど。きみ今、捕りたいって言った?」
「うん。私、元ソフトボールのキャッチャーだし」
「ま、まじで?! ならこれ、貸すから捕って!」
成宮君にグローブを投げ渡され、私はそれを見る。
(成宮君、左利きなんだ)
私は右利きだから、今までずっと左手にグローブをはめてきたんだけど。まあ、捕るだけなら右手にはめてもいいか。
グローブが柔らかい。ダメなグローブってのは固いものなんだけど、やっぱりグローブを大事にしてるんだなあって。スポーツマンなら当然だ。
「この辺かな」
成宮君が距離をとってくれたみたい。
ソフトボールとは違って、野球はピッチャーとキャッチャー……つまり、バッテリーの間の距離が長い。
だからこそ、ここから見る景色は新鮮だ。
右手にはめるグローブ、バッテリー間の距離、私にボールを投げ込んでくる人……何もかもが違うけど、見上げればあの頃に見た空と同じ、眩しいくらいの晴天。
(なんだろう、この気持ち……)
「ストレート投げるからね! 言っとくけど、速いよ!」
成宮君の声で、意識が覚醒する。
成宮君が振りかぶる……そして。
「!!」
右手のひらから全身に伝わる振動。バッテリー間の距離の違いを感じさせないほどの投球の速さ。
この人は、すごいピッチャーだ。
本能が警鐘を鳴らす。彼こそが、青道の行く先を遮る人であると。彼を倒さなければ、甲子園にはいけないと。
(面白い……!)
私は成宮君にグローブとボールを返す。
「どーだった?! すごいでしょ、俺!」
「すごいよ。けどまあ、私の応援で、青道が成宮君……いや、稲城実業を倒すよ」
なんて、言ってみた。