第5章 高校球児達との出会い
私立稲城実業高校。私の家からは電車を使わないと通うことのできない距離にある。家から駅まで自転車で20分。稲城実業高校の最寄駅から稲城までバスで15分。あ、私の最寄駅から稲城の最寄駅までは電車で30分。
つまり、遠いわけだ。
8時半が集合なら、初日だし8時に着きたい。そう考えた結果、7時前に家を出なければいけないのだ。
(朝起きるのつらっ)
部活を辞めて堕落した生活を送っていた私にとっては、朝起きる時間が大幅に変わるということはなかなか辛いことでもあった。
7時40分。土曜日の朝の駅は、ジャージはユニフォームを身に纏った学生ばかり。
(青道野球部は、何時から活動するんだろうなあ)
バスターミナルに向かう途中、そんなことを考える。
その時、ふと頭をよぎるのは御幸君の顔。
自信ありげな力強い瞳に、整った顔。
(待て、何でそこで御幸君がでてくるのさ)
自問自答……ではないな。答えが出ないもの。
(でも、頑張るって決めたんだから……
頑張るって……)
すでに心が折れそう。
水道の蛇口近くに頭を突っ込んで、思いっきり水浴びをする。喉はすでにからっから。腕は90度以上上がらない。
(応援団って、こんなに辛いの……?!)
朝学校に着き、稲城実業の男子応援団部に挨拶をする。
声が小さい、と一喝される。
声出し。
男子15人くらいの集団に一人混じってフリの練習。
ちなみに今日やったのは「受け」というもの。
応援にも、リーダーと受けというものがある。
リーダーというのは、みんなの前で拳を突き出したり叫んだりする。応援団のイメージは大体、このリーダーのことを指してたりする。
受けというのは、客席を回りながら皆を鼓舞する役割。フリはリーダーよりも簡単。応援団の新入りはまず、この受けから入るらしい。
簡単だけど辛いのだ。ずっと叫びっぱなしで、腕を持ち上げているということは。途中で腕が震えてきて、痙攣しているかの如く。
(疲れるどころじゃないぞ、これ)
私は水を浴びながら蛇口を閉め、勢いよく顔を上げた。
「!」
気づかなかった。隣に野球部の人がいたなんて。
「あれ、うちの生徒じゃないの?」
子供っぽい顔に、白髪の明るそうな野球部員がいた。