第4章 始動
「そ、それってどこの学校とですか」
突然のことに、思考が追いつかない。だって、さっき先生に話をしに行って、今日中に対応策が練られるとは思ってもみなかった。
まあ、あのボケが始まっていそうな先生だから信用していなかったのもあるけど。
「私立稲城実業高校のォ、応援団部とォ、毎週土日ィ、練習するというのはァ、どうでしょうー」
(イナシロジツギョウ?)
稲城実業高校とは、青道に並ぶ野球の強豪校で、同じ西東京地区の学校としてしのぎを削り合っている。
特に、名監督と呼ばれる「国友監督」が来てからは春夏合わせての甲子園出場回数も圧倒的だ。
(何でまた、そんなライバル校と……)
「とりあえずゥ、今日は金曜日なのでェ。明日、朝の8時30分にィ、稲城実業高校のグラウンドに行くようにー」
先生はそれだけ言うと、歩幅約30センチで校舎の方へと戻っていった。
その後、荷物の整理やら何やらをしていたら、あっという間に7時くらいになってしまった。
(こんな時間まで学校に残るの、久しぶりだな)
部活をやっていた頃は、この時間なんて当たり前だった。あ、今も部活やってるんだった。
「木下さん」
青心寮と呼ばれる、野球部の寮の近くに立っていたら、呼び止められた。
「御幸君か」
部活でお疲れの様子の御幸君。
「応援団部に引き込んだの、俺も原因の一部だから。困ったことがあったら俺に言えよ?」
なんで、突然そんな優しい言葉を言うわけ?
「変なの、御幸君。最初は傍観者ぶってた癖によく言うよ」
「それはお前が一生懸命だったから」
彼の声色が、彼の言葉に信憑性を持たせる。真実の言葉なんだと思ってしまう。
「俺、木下さんに応援されたい」
「!」
御幸君はふいっと顔を逸らしたかと思うと小さくつぶいた。
「応援団部、入ってくれてサンキューな」
そんな言葉一つで、「ああ、入ってよかったかも」なんて思ってしまう私は安い女なのかもしれない。
(それでも、嬉しかったから……!)
私は唇をキュッと噛み、何故だか溢れそうになる涙を堪えた。
ああ、私は誰かの力になりたかっただけなのかもしれない。だから、こんな言葉一つで舞い上がれちゃうんだ。
もう、稲城実業でもなんでもかかってこい!!