第4章 始動
初めてかもしれない。こうやって、倉持君と並んで歩くのは。というか、男子と並んで歩くという行為自体が初めてだ。
「野球、好きだったもんな、木下」
ふとつぶやく倉持君。私は遠慮がちに倉持君の横顔を覗く。その頬は、ほんのりと赤かった。
「お、お前がしょっちゅう野球部覗いてるから嫌でも視界に入ったんだよ!」
「それはそれは、すみませんでしたー」
「あ、謝るな!」
「本気で謝ったわけじゃないけど」
なんだろ、思ったよりも話しやすい人だ。
「倉持君、面白いね!」
「はあ?」
こんな当たり障りのない会話をしながら、私と倉持君は屋上にたどり着いた。
屋上の入り口に校旗と太鼓は置いておいた為、少しは移動しやすくなってるかな。
「太鼓は1人では運べねえしな。仕方ねー。もう一往復を覚悟で運ぶか」
倉持君は太鼓の片側を持つ。すると、少し驚いたような顔をする。
「あれ、思ったよりも軽いのか」
そう。私も移動させるときに驚いたんだけど、応援に使う太鼓は軽い。見た目がゴツいから重く見られがちだけど、なかなか軽い。
「紐でくくれば、担げるかと思ったんだけど」
「大丈夫かよ、それ」
「多分! まあ、実際は校旗の方が重いし」
それを聞くと、倉持君は太鼓を下ろして校旗を持った。
「んじゃー、軽い方持てよ。俺、こっち持つから」
(倉持君……!)
私は太鼓を背負い、倉持君を見上げる。
「……ありがとう」
「男なら当たり前だろ」
練習場につき、荷物を置く。
倉持君の額には汗が浮かんでいた。
「本当に、ありがとうございましたっ!」
私が勢いよく頭を下げると、両肩をつかまれ、無理矢理頭を上げさせられる。
そして、顔に倉持君の指が近づいてくる。
「……っ」
思わず目を瞑ると、額に痛みが走る。
「デコピン?!」
なかなか痛かったので、私は額を押さえながら倉持君を睨みつける。
「困ったらいつでも言えよ。また、手伝ってやるから」
「うん!」
倉持君はそう言ってから、グラウンドへ走っていった。
荷物の移動もあらかた終え、日も徐々に落ち始めた頃。
「男子応援団部のォ、木下さん」
磯辺先生がわざわざグラウンドまで来ていたのだ。
「男子応援団はァ、合同練習することにしますゥ」