第4章 始動
片岡先生に言われ、私は今、屋上にあった応援団部の荷物を持って、野球部の練習場へ向かっている。
(重ッ……)
野球応援用のメガホンがたくさん入った段ボール箱を抱え、横断幕の入った袋を背中に背負っている。
(あと、太鼓と校旗が残ってるからなあ。……2往復しなきゃ)
先を考えるだけで涙が出てきそうだ。野球部のグラウンドと校舎の距離が遠過ぎる。
「着いたあああ」
室内練習場。あまり物が置かれていないのが印象的だった。建物の端っこに筋トレ用の器具があったり、ホワイトボードやらが置いてある。スペースが開けてあるのは、多くの人たちが素振りをするためだと思われる。
(こんなところで、練習してるんだ)
野球部では、寮に住んでいる人も少なくないと聞く。もしかしたら、夜とかは室内練習場でバットを振ってるのかもしれない。
(そんなすごい人たちを応援するんだ……!)
自然と、頑張ろうという気持ちが溢れてくる。
「誰だ」
室内練習場に響き渡る声。
悪いことをしているわけでもないのに、心臓がうるさくなる。
「あれ、木下か」
私のことを知っているということは御幸君! ……というわけでもなかった。
「倉持洋一君?」
ヤンキー顔の倉持君だ。髪型がリーゼントの3歩手前みたいな感じの人。御幸君よりかは背が低いけど、勿論私よりかは高い。
「おう、そうだけど。なんだよ、その荷物」
倉持君は私の手に持っている荷物に目をやる。
「男子応援団部の荷物を移動してるの。あ、ちゃんと片岡先生からは許可もらったから大丈夫だよ」
「つかお前、男子応援団部入ったのか?」
「まあ、色々とあって」
私は倉持君から目を逸らしつつ、うなずく。
「てか、その荷物はどこから? 男子応援団部は部室とられたんだろ?」
「屋上からだよ。まだ校旗と太鼓が残ってるけど」
私の言葉に、倉持君はちょっと待ってろと言うと、走って練習場からいなくなってしまった。
「走るの速っ」
陸上部でも充分やっていけるような足の速さだった。
「俺も手伝ってやるよ!」
そして、戻ってくるのも早い。
倉持君はニッと笑いながら私の横に立つ。
「先輩達には言ってきたからよ。荷物運び、手伝ってやる」
「あ、ありがとう」
意外と紳士なヤンキーだな。