第26章 脱・学ラン
「待たせてごめんな」
まだ、御幸は私を好きでいてくれていた。
あの約束を覚えてくれていた。
「私もっ……待たせてごめんね」
それならもっと早く、私の方から御幸に言えばよかった。心のどこかで御幸に拒絶されることを恐れていたから、私は何も言えなかったんだ。
(今となれば、失った時間が勿体無いよ。少しでも早く告白すればよかった。進路が違うから、一緒にいる時間は限られちゃうのに)
御幸にふいに手を引かれ、人気のないところへと連れて行かれる。
「あ、あのっ……御幸?」
次の瞬間、御幸の顔がものすごく近い距離にあった。唇が触れ合いそうなくらい、近い。手が腰に回されていて思うように動けない。
「木下の気持ち、聞かせて」
吐息がかかる。心臓が高鳴る。
「そ、そんなに近くで言うことでも……」
「聞かせて」
こうなると御幸は頑固だ。
「好きだよ! 大好き!! 野球に一生懸命な御幸も、ちょっと腹黒い御幸も、野球以外の球技がからっきしな御幸も、私は御幸の全部がっ」
口が塞がれる。これで御幸とは2回目かな。
(ほんと、突然なんだからな)
でも、すごく幸せだ。今、私はずっと想い続けていた相手とキスをしているんだから。
御幸はなんども角度を変えてキスをする。
御幸の気が済んだのか、そっと解放された。
「あー……悪い。なんか、そういうつもりじゃなかったんだけど、止められなくて」
少し気まずそうにしている御幸が可愛らしく見えて、私は思わず笑ってしまう。
「別にいーよ、御幸だから」
私の言葉に「それ反則」とか言いながら、御幸は手で口元を押さえる。けど、すぐに手を離して私に向き直る。
「進路とか違うし、これからお互い忙しいとは思う。それでも俺は木下以外と一緒にいるところなんて考えられないから。俺と、付き合ってくれ」
「勿論! こちらこそ、よろしくお願いします」
間髪入れずに返事をした。
(だって、嬉しいから)
「んじゃ、初デートと行きますか。結」
御幸はいつも通りの笑みを浮かべる。
「そうだね、一也!!」