第26章 脱・学ラン
「……なーんか見慣れないよな、木下のスカート姿」
部活を引退してからの夏休み。わたしは学ランを置いてくるべく、学校に登校してきていた。そこで御幸と会ったんだけど、スカート姿の私を見て突然吹き出してきたというワケだ。
「御幸に応援団部誘われる前はこの姿が当たり前だったんだけど?」
膝よりも少し上までのスカート丈。今日も暑いから、半袖ワイシャツ一枚での登校。なんか、当たり前のことがすごく新鮮に感じられる。
対する御幸は練習着。
「御幸は卒業したらプロ行くんだっけ?」
お互いに言葉を交わさずとも、いつもの自動販売機の隣のベンチへと向かう。
「ま、体が動くうちに行っといた方がいいだろ?」
「そりゃそうだね」
野球のことがなくなると、途端に話ができなくなってしまう。今までどうやって、何を御幸と話していたのかを考えると、やっぱり野球のことしか出てこない。
「木下は、進路どうすんの」
御幸は自動販売機でカフェオレを買い、私に手渡す。
「あ、ありがとう」
(もう、お互いの好みも覚えちゃったんだよね)
御幸はスポーツドリンクを買い、2人で並んでベンチに座る。
「私は指定校推薦で大学に行くつもりだよ」
「木下は頭良かったんだっけ」
「先生が推薦くれるくらいには良いと思うよ」
私は大学、御幸はプロ入り。
(どうやったって、同じ道にはならない)
プロ野球選手はアナウンサーと結婚するってよくテレビで見るけど、私はそういうつもりはないし。
(引退した途端、これか)
御幸は忘れているのかな。引退するまでに御幸の隣を私の為に空けておいてくれることを。
「あのさ、御幸」
私の気持ちは、ずっと変わっていないのに。
「ん、何?」
意を決して御幸と目を合わせた瞬間、何も言えなくなってしまう。
「あ、あれ? 今の一瞬で何言おうとしたか忘れちゃった」
「何だよそれ? すっごい気になるんだけど?」
「忘れたってことは大した話じゃないんだよ、きっと!」
「ならいいけど」
私は持っていたカフェオレを一気に飲み干し、ゴミ箱に捨てる。
「じゃあ私、家帰るね! 勉強しなきゃ!!」
そう言うことだけで精一杯だった。
「指定校推薦なら勉強急ぐ必要ないだろ……」