第3章 詰襟デビュー
翌日、私は学ランを着て家を出た。
親にはワケを説明したんだけど、最後まで怪訝そうな顔で私を見送っていた。……仕方ないよね。
みんなの好奇の目に晒されていたけど、誰も直接私に話しかけてくる人はいなかった。
恐る恐る教室の扉を開け、小さな声でおはようと言いながら教室に入った。
(うわあ……恥ずかしい)
説明しよう。私はクラスの中でも地味な立場なのだ。その為、話しかけてくる人はいない。
高校で友達を作り損ねたってこと。部活も入っていないし、他人との関わりが一切ないから。
(男子応援団部入っても、部員は私だけだけどね)
自席に着き、私は荷物を置いて席に座る。
時間が経つにつれて、朝練が終わった人達がぞろぞろと教室に入ってきては、私を見て目を見開いていく。
なんか、面白くなってきたな。
(……て、それより御幸は?!)
なかなか野球部が入ってこない。
ちなみに、私のクラスには御幸君以外にもう一人、倉持洋一(くらもちよういち)という野球部員がいる。
彼もまた、外見がヤンキーで、愛想のない孤高の男だけど。
「おー、木下さんおはよ」
私に声をかけてくれた人物は彼以外の何者でもない、元凶の御幸君だった。
「御幸君っ! 男子応援団部、私以外に部員がいないってどういうこと?! 部室をとられたってどういうこと?! 女子応援団部と仲が悪いってどういうこと?!」
とにかく、思いついたことを全部言ってやる。
「何、そんなのも知らないで入ったわけ?」
……。
「だって、御幸君が誘ってきたから……っ」
「あー、それはだな。司先輩は俺のご近所さんで、小さい頃からの付き合いなんだわ。んで、この間宿題を手伝ってもらった代わりに、新入部員の候補探しを任されてたってわけ」
「……そう、なんだ」
はい、御幸君は応援団の人に買収されてるとも言ってました。応援団部は廃部の危機だとも……はい、言ってました。
(自業自得ッ……!)
私が机に伏せると、頭にポンッと優しく手を置かれる。
「でもまあ、野球を知ってくれていて、スポーツが好きな木下さんに応援してもらいたいってのは、あながち嘘でもなかった」
それ、殺し文句だから……。
「ガンバリマス」