第25章 あの頃と同じ
あの夏の大会以降、1日が過ぎていくのが早かった。
新チームのキャプテンには御幸、副キャプテンには倉持と前園君が選ばれ、1年生もメキメキと頭角を現していった。
片岡先生が辞任願を出したと、野球部の3年の先輩から聞いた。そして、後任の監督となる予定の人がグラウンドに出入りするようになり、なんだか不思議な感じがした。
御幸には様々な試練があったと思う。
キャッチャーで、キャプテンで、4番バッター。そのすべての重責を負うようになった御幸は、時々私に弱音を漏らしていた。
「木下、俺はキャプテンに向いてないんだと思う」
そんな言葉も何回も聞いたし、何度だって励ました。私だって応援団長だから、部員が少ないとは言え、多少の責任は感じてる。ほんの少しでも御幸の力になりたくて、たくさん話を聞いてアトバイスをした。
そういえば、鳴に言われた通り、私は甲子園の決勝を観に行った。稲実は負けちゃったけれど、鳴はすごくカッコよかった。それに、現場の雰囲気も味わえたし。
すれ違っていたチームも、秋の大会を勝ちあがるにつれて、だんだんと噛み合っていった。そして、青道が東京都の秋大を制した。
御幸は「これで監督はうちの学校を離れらんねーな!」と嬉々として語っていたのを思い出す。まあ、御幸自身は怪我をしたりして色々大変だったんだけどね!
「でも、それも今日で終わりなんだ」
3年最後の夏。応援団部は更に人数を増やし、私を含めて10人になった。お陰様で応援の幅も広がる。
(この試合に勝っても負けても、私達の試合はここで終わるんだ)
去年の夏の大会決勝のように、ジリジリと照りつける太陽。
肌を焦がす太陽は、私がソフトボールにやっていた頃と同じ。
大声で喉が枯れるこの感覚は、ソフトボールの守備練習で声を出していたときみたい。
この踏ん張りで痛む足は、ソフトボールで素振りをしていた時の足と同じ。
手を叩くことによって手のひらが痛むこの感じは、冬にキャッチボールをした時の左手と同じ。
応援で筋肉痛になるこの腕は、送球で疲れる腕と同じ。
私は失ったはずのすべてのものを得ることができた。
(御幸には、感謝しかないよ)
「フレェェェェ!! フレェェェェ!! 青道!!」