第24章 敗戦
全身の血の気が引く感じがした。
球場の外に出るまでの記憶が全くない。相手チームとの最後のエール交換をどうしたのかとか、終わった後の片付けだとか、お客さんが私に何と声をかけたのか。
「足りなかった、足りなかったんだよ、応援が」
さっきからその言葉しか私の口からは出なくて、それ以外の何も思い浮かばなかった。だって、強かったんだ。今年の青道は、最強の布陣だったんだ……。
「あ……」
遠目に見える青道の選手たち。その選手たちに人々が「ナイスゲーム」、「胸を張れ」、「来年また頑張ろう」などのこえをかけている。
「期待に応えられなくて、すみませんでした!! 応援ありがとうございました!!」
憔悴し切った顔で結城先輩はそう言っていた。選手たちも真っ赤な目で、火照る体で、唇を噛み締めて、頭を下げていた。
私は選手たちに合わせる顔なんてない。「お疲れ」の一言だって、今の彼らにはきっと届かない。
「……先輩、先輩のせいじゃねぇっすよ……」
「そうです。だから、自分を責めて泣かないでください」
リューマと太郎の言葉もどこか遠くに聞こえる。
稲実が強いのも知っているのに、「どうして」の思いが止まらない。
「甲子園、行って欲しかった……!」
両手で顔を覆い、通行の邪魔にならないところで泣いた。声を出さないようにすることが精一杯で、他に何も考えられなかった。
「木下」
頭の上に優しく手が置かれる。
「……御幸?」
あまりグシャグシャの顔は見られたくないけど、片方の手を外して手の主を見る。
そこには、強い瞳をしている御幸の姿が。
「御幸、ごめ「言うなっ!」」
強い言葉で止められる。
「お前はよく応援してくれたから。お前の……木下の応援は俺たちにも届いたから!!」
「応援ありがとうございました!」
「したぁ!!」
気が付けば、私の周りには野球部のみんながいた。全員が、私たちの応援に対して、お礼をしてくれた。頭を、下げていた。
「こちらこそ……みなさんを応援できてよかったです!! ありがとうございました!!」
青道の、今年の夏は終わった。
私たち2年生は、次が最後の夏になる。