第23章 西東京大会決勝
9回表、バッターは御幸から。ランナーがいない状態から、御幸が2塁打を放つ。降谷君もなんとかボールをバットに当て、自らはアウトになりながらもランナーを3塁に進める。
(沢村君はバントが得意……なら)
またもやスクイズ! 御幸は既に塁を蹴ってホームに走っている。沢村君もきっちりバントを決め……
(鳴?!)
あんな鳴は初めて見た。体ごと打球に突っ込んでいき、御幸をホームで仕留めた。続くバッターの白州君をうち取り、とうとう鳴は9回を投げ抜いたんだ。
(1点差……なんとかして守らないと、延長になったらこっちが不利だ)
そして、最終回を投げるのは1年の沢村君。
(御幸、お願い。沢村君を、チームを勝利に導いて)
応援は、自分たちが攻撃の時にできる。守備の時は主となって応援できない。ここまでの役割は果たした。
時はあっという間だ。
沢村君のピッチングとファインプレーが重なり、気づけば2アウト。
(甲子園が、近づいている)
しかし、注目の初球……鈍い音が響き、稲実のバッターのヘルメットが吹き飛び、選手はグラウンドに尻をついた。
「デッ…」
稲実バッターの雄叫びと共に響く「デッドボール」の声。
(決勝の9回裏というプレッシャーが沢村君をここまで追い詰めていたなんて……! しかも、ただのデッドボールじゃない。頭部死球か)
呆然とした沢村君を投げさせるわけにもいかず、川上君が急遽登板した。
9回裏2アウトから主砲原田さんのバットで1人のランナーが生還する。
(延長もありえる。早く応援の準備をしなきゃ!)
まだ、試合は終わっていない。
まだ、試合は……。
「やめて」
乾いた音が響く。
応援席で誰かがメガホンを落とした。
外野の間を一直線に何かが抜ける。
その景色は、モノクロに見えて……
私はただ、見ることしかできなくて。
試合終了の合図と、ベンチから飛び出す稲実の選手達。決勝打を放った張本人の鳴はその場に泣き崩れる。
(あと、アウト1つ……だったのに)
その場に泣き崩れていた青道の選手も、きっちりと整列する。
両チームに送られる惜しみない拍手。
西東京大会決勝、私達は4ー5の逆転負けを喫した。