第22章 夏の大会準決勝
「なんだかんだ、こうやって2人で話すのは初めてかもな!」
沈黙の時間を破ってくれたのは川上くんの方から。2人で歩調を合わせながら歩く。
「そう、だね。クラスも一緒になれなかったし、2年生は御幸や倉持ばかりと話してる気がするよ」
「いつも一緒にいるよな?」
「それほどじゃないって!」
川上くんはなんだろう。喋っているだけで癒されるというか、安心して話せる相手だと思う。
「あんまり木下さんと話せなかったからさ。お礼、言わせてよ」
川上くんは不意に足を止め、私の方を向く。
「いつも応援ありがとう! その応援から、俺も力を貰ってます!!」
(あ、れ……)
どうして涙が出てくるんだろう。いつもだったら、「ありがとう、これからも全力で応援するね」って笑顔で返せるのに。
(明日が大一番だからかな。理由はわからないけど、涙が出てくるよ)
「おわっ?! な、な、何で泣いて……えっ? お、俺のせいかな……」
「違うよっ! なんか突然……。多分、ここまで来れた安堵感かな。野球部員じゃないけど、なんでだろうねっ」
私は手で涙を拭い、歩くのを再開した。
「多分、ゾノはあの辺いると思うから」
川上くんの指差す先には数々の人影が。
「うん、ここまで案内ありがとう!」
「気にすんな! 俺もこっち来たかったし! 明日もよろしく!」
「川上くんこそ、稲実打線を頑張って抑えてね! 応援してるから!」
こうして川上くんと別れ、私は前園君のいる場所にたどり着いた。
「前園君! 新しい振り付けできた?!」
「絶賛指導中や!! どいつもこいつも恥捨てさせなあかんからな!!」
前園君がメガホンを持ってポーズを決めると、他の選手たちもそれをマネる。そう、私は前園君に新しい応援の振り付けの開発を頼んでいた。
「でも、結構いい感じに仕上がってるね! これなら明日も使えそうだし、安心したよ」
前園君は照れ臭そうに笑う。
「団長の頼みやしな。明日はよろしく頼むで! ホンマに!」
「勿論! 前園君も頼りにしてるよ」
準備は全て整った。野球部の新しい振り付けも確認できたし、私がやり残すことはもうない。
(明日の応援に全てを懸ける)
あと1勝で甲子園。夢の舞台。
そして、西東京大会の決勝が始まる……!