第23章 西東京大会決勝
『本日は気温が大変高いため、熱中症にならないよう水分をお取りになり、ご注意の上、ご観戦ください』
太陽によって頬がジリジリと焼けるのがわかる。球場ならではのうぐいす嬢の声が響く。外野スタンドまで開く過去最高の集客。それもそのはず、今日の試合は西東京で最強を争う試合、我らが青道高校と王者稲城実業。
「先輩、俺……緊張してきました」
太郎は不安気に眉をひそめ、観客席を見渡す。
「確かに、こんな観客の多さは初めてだもんね……」
私は大きく深呼吸をしてから、リューマの肩を叩く。
「リューマ。稲実まで乗り込みに行くから、付き添いお願い」
応援団部の「乗り込み」とは、試合前に相手の応援団のもとまで行き、応援の打ち合わせをすることをさす。そして、そこに行くのはうちでは応援団長と次期応援団長と決めている。
「俺が……っすか」
少し驚いた顔のリューマ。
「私はまだ2年だから来年もあるけど、その後の団長はリューマ、あなたに任せるつもりだから」
少し悔しそうだけど、太郎も小さく頷く。
「はいっ! 先輩、さっさと稲実に突撃しようじゃないっすか!!」
「行くよ!!」
リューマとともにスタンドを走り、稲実の応援席に向かう。その途中にも数々の声援が私達に送られる。
「青道高校応援団部!」
迎えるのは稲実の男子団部。私が稲実と合同練習をした際にお世話になった相手だ。
「……木下さんか、見違えたな」
「稲実の皆さんに指導をしていただいたお陰です」
「お前の努力の力も大きいはずだ」
「しかし、勝たせてもらいますよ」
私の言葉に、相手もニヤッと笑う。そして、お互いに握手を交わして、応援の打ち合わせをして各自の応援場所に戻った。
選手がグラウンドに入るだけで大きな声援が起こる。
「選手の名前が呼ばれたら皆さん拍手をお願いします!」
シートノックの間に呼ばれる選手の名前。
そしてシートノックが終わり、試合始まりの1時になる……。
『両チーム整列!!』
「いくぞぉ!!」「おぉ!!」
勢いよく飛び出してくる両チームの選手たちに、また観客の割れんばかりの拍手が巻き起こる。
試合開始からボルテージは最高潮。先攻は青道。
「1番バッターは倉持です! TRAINTRAINお願いします!!」