第22章 夏の大会準決勝
鳴1人だけならよかったんだけど……。
「青道で応援団やってた子か?」
と詰め寄ってくるブラジル人っぽい人。
「……女なんかにうつつを抜かしている場合じゃないっていうのに何やってるんだか……」
とボソボソと小さい声で毒づくオカッパヘアーの選手。
(稲城実業キャラ濃い……!)
すると、鳴が私の肩を抱き、自分の方へと寄せる。
「俺が今、絶賛片想い中の女の子なの! 2人とも手を出したらぶっ潰すからね!!」
「だーれが手なんか出すかよ、このボウヤが」
「だいたい学ラン着てる女子にどうやって手を出すんだか」
「言いたい放題言わせとけばなんてこと言うわけ?! 結はめちゃくちゃ可愛いからね?! メールで使ってる顔文字とか!」
「鳴やめてーっ!!」
なんで自分が話してないのに恥ずかしくならなきゃいけないんだ!!!
私は鳴から離れて身構える。
「お、お気持ちは嬉しいですが次は敵同士! 前日にじゃれ合うつもりはないから……!」
「んー……まぁ、そうだね」
鳴はいつもの可愛らしい笑顔でこちらを見る。
「一也のいる青道を倒して、俺は甲子園に行く!」
(……一也のいる、って。どんだけこだわってるんだか)
でも、鳴のこういうまっすぐな強い想いは好きだ。嘘偽りのない、気持ちいいほどの闘志。やる気。
「鳴のいる稲実を倒して、私達は甲子園に行くよ」
私のセリフに、ブラジル人っぽい人が茶化すように口笛を吹く。
「いいねぇ。結構俺の好みかもな」
「だーかーらー! カルロスは黙っててよ!!」
どうやらカルロス君というらしい。
「……まあ、その辺の女子よりかはいいかもね」
「白河も黙って!」
オカッパヘアーは白河くんね、覚えたよ。
「それじゃあ、また明後日」
私はそう言い残し、彼らの元を去った。
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決勝前日。どうしても気になることがあって学校に来てしまった。
もう日が落ちている。でも、本当に突然思い出したことなんだ。
「あれ、木下さん、どうしたの?」
グラウンド近くをうろついている所を2年ピッチャーの川上君が声をかけてくれた。
「あー、ちょっと応援のことで。前園君に会いたいんだけど」
「ゾノ? いいよ、俺が案内するね」
川上君と話すのも新鮮かも。