第21章 御幸の父親との出会い
お言葉に甘えて上がらせてもらったお宅。作業所と家が同じ場所に建てられている。
(小さな工場だな)
リビングに案内され、椅子に腰掛ける。
「本当に助かったよ。あれがなかったら、私は今月餓死してたかもしれない」
男性は困ったように笑いながら、私の目の前にオレンジジュースを置く。
「そういう大切なものは、自転車カゴに無造作に入れたらダメですよ」
「君の言う通りだ。あー、息子が家にいなくてよかった」
「部活ですか?」
「いーや、寮に入って野球をやってるんだよ」
その言葉に胸の鼓動が大きく聞こえる。
『御幸スチール』という看板が脳裏をよぎる。その時、私の視界に小さな写真立てが入り込む。
「……あ」
メガネをかけた少年と私の目の前にいる男声が手を繋いでいる写真。その少年は私の知り合いの面影を宿していて……。
「息子が幼い頃に妻を亡くしてね。男1人で育ててきたんだけど、辛い思いをさせたと思う。野球も見てやれなかったし、家事もみんな自分でやってくれて」
「……」
「仕事が落ち着いて、家事をしようと思ったら息子に止められてね。私がやると失敗するし、何より私は息子に気を遣われていたんだ。……最低な父親だよ」
「そんなこと、ないと思います」
男性はまっすぐに私の目を見て、そらさない。
「初対面の君に重い話をしてしまったね」
「私は青道高校2年男子応援団部団長の木下結と申します! 男子応援団部ではありますが、性別は女子です!」
私は感情に身を任せて席を立つ。
「お願いします! 息子さんの勇姿を……試合を観に来てください!! 御幸のお父さん!!」
どうしてだろう。どうして私が泣きそうなんだろう。
「けど、こんな私なんかが一也の試合を観に行くなんて……。あいつは私に観に来てほしいなんて……」
このお父さんに見てほしい。御幸は、あなたの支えがあったから野球が出来たんです。そして、すごく野球がうまくなったんです。
「きっと、観にきてほしいと思っていますよ」
御幸は他の人よりずっと視野も広く、大人びている。それでも、あなたの前では息子なんです。子供なんです。
試合を観に来てほしい。