第21章 御幸の父親との出会い
夏の猛暑に身体がやられつつあるけど、まだ佳境を迎えていないと思うと、本当に精神的にも削られてくる。
「でも、野球部は練習中なのか」
都大会準決勝は明日。調整くらいだろうけど、野球部は活動している。
私たち男子応援団部は応援の打ち合わせを午前で終わらせ、午後は休むことになった。
私はその時間を使い、東京の下町まで買い物に来ているわけだ。
(太鼓のバチが壊れかけてたとはいえ、まさかここまで買いに来ることになるなんてね)
電車を使って1時間くらいの場所。めっきり都会の雰囲気は消え、昔からある住宅街だ。
(でもまあ、新しいバチも買えたし、帰ろうかな)
そう思った時、すれ違った自転車のカゴの荷物が地面に散乱する。おそらく、段差の揺れによるものだろう。
私はとっさにその荷物を拾い集める。
「あー! いやぁ、すみませんね」
荷物主は私のお父さん世代の優しそうな男性。
「いえいえ、大丈夫ですよ」
荷物を渡すと、「ありがとうございました」と小さく頭を下げ、男性は再び自転車に乗って去っていった。
(……あれ)
男性が去ってから気づいた、地面に置き忘れ去られた封筒の存在。
私はその封筒を拾い上げる。
(空の封筒だったら届ける必要ないけど)
そっと封筒の蓋をあけると……
(福沢諭吉がいっぱい?!)
おそらくあの男性のお給料だろう。この際、お給料を手提げ袋に入れてチャリカゴに乗せるな! という思いは置いておいて、これを男性に届けなければ!!
(追いかけよう!)
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警察に届ければよかった。
(暑いし、男の人見つからないし……)
私服のTシャツが汗でべったりと張り付く。もう、どれくらい歩いたことか。
周りの家を見渡しても何も解決することはないし。ただ、『御幸スチール』という看板を見て少しの笑いがこみ上げてくるくらい。
(……交番探そうかな)
「あ! きみ! さっきの!!」
その声に振り返ると、御幸スチールとかかれた建物から先ほどの男性が。
「あ! これ、封筒……」
「ああーっ!! よかったー!! あったんだ!!」
男性は目に涙すら浮かべて私に頭を下げる。
「ありがとうございます! 暑い中私を探していたんですね。うち、ここなんで、少し上がっていってください」