第20章 薬師戦
丹波先輩は俊平を三振にうちとり、流れを持ってきた。
9回表、2アウト……あと一人のところで回ってきたバッターは轟君。
(轟君を敬遠して次のバッターで勝負するのか、それとも……真っ向勝負か)
緊張のあまりに口の中が乾いていく。
2ストライクまで追い込んだ、あと1つ……!
「丹波先輩ッ……!」
轟君のバットの空を切る音。それと同時に青道の選手たちが丹波先輩に駆け寄っていく。
「……勝った」
ポツリとリューマが呟く。
「先輩、最後の球……」
「そうだね、太郎。……私も初めて見たよ」
丹波先輩のフォークボール。
(まさか、薬師に知られていない球で決めに行くなんて……! しかも、轟君相手にフォークなんて、甘かったら確実にもってかれたじゃん!)
この強気なリードこそ、御幸。
選手たちが一列に並んで礼をする。私達の拍手と同時に試合終了のサイレンが鳴った……。
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私は球場の外で学ランを脱ぐ。
「いい応援だったぞ!」
「また応援頑張れよ!」
気がつけば、私達男子応援団部の周りにはたくさんの人たちが立っていた。
「あたしたち、また野球応援行くね!!」
「かっこよかったよ!!」
大人から生徒まで、私達に拍手をくれる。私の隣に立つ太郎の目にはじわりと涙が浮かんでいて、リューマも照れ臭そうに笑っている。
「ありがとうございます!! 次の試合に向けて、また精進して参ります!! 次もよろしくお願いします!!」
人だかりが消えてから、私の元に歩み寄ってきた人がいる。
「よっ、結」
肩をアイシングしている俊平だった。
「俊平! ……チームの元にいなくていの?」
俊平はいつも通りの笑みを浮かべる。
「一通り挨拶は終わったからな。ここを出る前にお前に逢いたくて」
「うん」
俊平は私の両肩をガッシリと掴んだ。
「甲子園、行けよ」
俊平の曇りなき瞳が私の姿を映す。
「俺らに勝ったんだ。俺らの分まで、戦え!! んで、日本一の景色を見て来い!!」
「……!」
「応援も立派だった! 負けた俺が結に伝えるのは、これくらいだから」
気のせいかな、俊平の顔が少し歪んでいるのは。涙を堪えているように見えるのは。
「勝ち進むよ、最後まで!!」