第2章 2.君は
「で、体調は?まあ俺の力を分けてやったんだし悪いなんてことはあり得ないけど」
言われてみて、そういえば事故に会う前と体調が全く変わらないことに気づく。いや、むしろ良くなってるぐらいだった。
「いい感じ」
「そうか、まあ、そうだよな」
バックミラーに映る彼の瞳からは、感情が読み取れない。何を思ってそんな質問をしたのかすら、さっぱりだ。
「いろいろ聞きたいみたいな顔をしてるけど、帰るまでおあずけ」
お預け、と言われて私の背筋が伸びる。……そうか、お預けか……。なら待たなきゃね、仕方ないよね。
私は手の中で指をもにもにと動かしながら、この彼の車が自分の住むマンションの駐車場に止まるのを待った。
待った、とはいえ、そう病院とマンションとの間に距離があるわけではない。ゲームなんかをやったりだとか、そんな暇つぶしをする前に、車はさっさとマンションに到着してしまった。
しかしやけに運転がうまいな。手慣れてる。
「ほら、着いたぞ」
「わかってるよ」
なんとなく彼にエスコートされるのが癪で少し反発してしまう。向こうもそれをわかっているのか、ほんの少し残念そうな苦笑いを浮かべている。
「402号室だっけ?お前の部屋」
「うん。……そういえば、鍵は?」
普段は服のポケットに入れている鍵だが、今は私のポケットに入っていない、つまり、何処か別の場所にあるということだ。それはちょっとマズイ。
「ココにあるよ」
彼はよくわからない形状の服のどこかからともなく、鍵を取り出した。鈍く銀に光るそれは、ついているストラップなんかから考えても間違いなく私のものだ。
「事故の時すっ飛んでたから。回収しといた」
「あ、そう……」
なんの気もなしにそう言う彼に、肩の力を抜かしながらも自分に「相手はこういう奴だ」と言い聞かせつつ、のそのそとエレベーターのある方角へと歩くのだった。