第7章 7.all ever for you.
私と入れ替わるように夢見が悪かったのかやけに機嫌が悪いクロハと朝食を摂った。
……あまりに機嫌が悪いので、適当な話で場を和ませたい。
「ねえクロハ、スカボローフェアって知ってる?」
「何だそりゃ」
「イングランド……イギリスの民謡でね。
妖精に無理難題をかけられている男が、魔除けの呪文を唱え続ける様子を歌にしたものらしいの。
最終的には撃退できたらしいよ」
「へえ。魔除けの呪文って?」
「パセリ、セージ、ローズマリーにタイム。この四種の植物には魔除けの効果があると向こうでは信じられているんだって」
「…………へえ」
/
『Parsley, sage, rosemary and thyme』
脳裏に蘇るのはヒヨリの歌っていた唄だ。
おそらく、同じ唄だろう。
「その無理難題ってのは?」
「うーん、ほとんど覚えてないんだけど、オチは『女性に求婚させる』って内容だった」
「へーえ……」
ヒヨリがこの唄を歌っていたのと、なにが関係があるんだろうか。
/
-
「……」
その後も何度も取り止めのない会話をしようとしたが、クロハがまともに返事をしてくれなかったので話すことを諦めていたさなか。
滅多にならないインターホンがなった。
「はあい」
私が玄関に出ると、そこにはあの呉服店の店員さんが立っていた。
「お届けに上がりました」
「あ、ありがとうございます」
聞けばいつも直に届けるサービスをしているらしい。
「着付けのほどはいかがしましょう」
「これやり方の紙とかあります?」
「中にいれてあります」
「なら、それで十分です。ありがとう」
「ありがとうございました」
浴衣を受け取ると、店の人は帰って行った。
……。
「クロハー!!浴衣届いた!」
「マジで!?」
その日はお互い謎のテンションで着物を着て見せあった。