第5章 5.「如月」
なんだかんだで、割と悪くない柄の布を選び、それで浴衣を仕立ててもらうことになった。
「しかし、本当に2日で出来るのか?」
「昔はどうしても10日以上かかったらしいけどね、今はほら。機械の技術も上がってるしね」
昔、前の主が服を作るのに本当に時間がかかると愚痴っていたのを思い出す。……技術が進むとこう言った所も楽になるものなのだなと漠然と思いながら、車を走らせる。
「ところでクロハ、気になってたんだけどこの車ってどこで」
「個人的に買ったやつ」
「そうなんだ」
「驚かないんだな」
「まあ、今更ねー」
いつの間に買ったんだとか、そういう質問はありそうだったが。……まあ説明したところでわかりやしないだろう。
そうこつしているうちに、車は何時ものマンションの駐車場にたどり着く。駐車して、エンジンを切り、キーを抜く。
「ちょっと郵便受け見てくるね」
「おう」
エレベーターの前で待つ。暫くすると、夕刊といくらかの手紙……勧誘か何かだろうな、それを抱えてアヤメが戻って来た。
「エレベーター、あけて」
「おう」
ボタンを押すと、すんなりエレベーターが開いた。誰かが出かけた直後のようだ。
「ほら」
「ありがと」
先に乗るよう促し、彼女が乗ったのを確認してから自分もエレベーターに乗る。「4」のボタンを押し、奥の壁に寄りかかる。
ふと彼女の手元を見やると、「宛名」の欄が見えた。
──如月 彩芽
「……如月?」
ぽつりと呟くと、アヤメがびくりと身を震わせる。……しまった、またやらかしたか。
そう思った瞬間、エレベーターが止まる。4階に着いた。……扉が開いてすぐに、何も言わずに走って出て行く。
「きゃっ、あぅ、ごめんなさい」
……が、出てすぐに誰かにぶつかったようだ。
すぐに後を追う。
「おい、大丈……ぶ……か……」
「あれ、クロハ?なんでここにいるの?」
「えっ、えっ?」
「おい、お前こそ、なんで此処に居んだよ……
九ノ瀬」
「んー、僕はちょっと用事があって。」
「……」
「えっ、だ、誰……?」
戸惑う彩芽に手を貸して立たせながら、奴のことを教える。
「……あいつは九ノ瀬遥……俺と同じ女王の蛇の、《醒ます蛇》だ」
「《醒ます蛇》……?」
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