第5章 5.「如月」
「アヤメ、浴衣って何処に買いに行くんだ」
「買うんじゃなくて、作ってもらうの。カーナビつけるよ」
「わかった。……作るって、どこからそんな金……」
「去年ちょっとアルバイトしてさ、そのバイト代がまだ全額きれいに残ってるの。多分普通に作れば2着は作れると思うよ」
「……そんな金使わなくても、」
「だーめ。私が君に着てほしいから作ってもらうの。だから私がお金を出さなきゃ意味ないの。だからクロハはお金を出しちゃダメ、っていうか出すな」
「命令形かよ……」
呆れたように肩を竦める彼をみて、やっぱり似合うだろうなあと思う。
白い肌に、整った顔立ち、それから肌に映える黒髪。どことなく妖しさを醸し出す金の瞳。
……そして、今日、午前中ずっとしていたあのアンニュイな表情からも、和装が似合うことを匂わせる。
「クロハ何色の浴衣がいいか考えた?」
「黒」
「喪服みたいにならない?」
「じゃあ赤」
「目立つよ身長180cm超がそんなの着たら」
「目立っちゃ悪いかよ」
「まあ別にいいけど……」
「なんだ、俺を他のやつに見て欲しくないのか」
「えっ、そんなことないよ……」
「ははは」
そんな言い方だとまるで、私が子供みたいじゃないか。……そういえば、クロハって、というか、クロハの身体って人間で言えばいくつなんだろう。確実に私より年上だけど、見た目からだと想像がつかないな。
「おっと、もう着くな」
カーナビが案内終了を示す。クロハが手慣れた動きで駐車して、エンジンを止める。
「じゃあ、似合いそうな布見繕ってもらおうか」
「俺は黒ければいいんだけど」
「何そのよくわかんないこだわりは……」
-
店内。
店員さんにクロハに似合いそうな柄を見繕ってもらっている間、私は自分に似合いそうな柄を探していた。
ふと、クロハが一枚の布を指差す。
「これ、……蝶柄?」
「それが丁度いいんじゃねえの」
言われて、手が空いている店員さんに頼んで、軽く体にあわせてみてもらう。
「……確かに、悪くないかも」
「お似合いですよ」
店員さんにもそう言われ、なんだか嬉しくなる。
「じゃあ……私はこれで作ってもらえますか」
そんなこんなで、私は赤黒の蝶柄の、そしてクロハは結局黒とグレーの矢絣模様の浴衣を作ってもらうことになった。
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