第5章 5.「如月」
「……」
そんな話をしてしまったあとなので、どうにもお互いばつが悪く、昼食までは二人して黙々と過ごした。
「クロハ、ご飯作るよ」
「おう」
「……今日は鶏と葱」
「おう!」
……やっぱり好きなんだな、鶏。
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……。
どうして俺はこんなに、動揺しているんだろうか。
目の前にいるのはただの人間の小娘だ、主や前の願い主と、そして、前の宿主と、なんら代わりはない。
にも関わらず、さっきされた、あの悲しげな顔を思い出すと、胸がキリキリ痛む。
此れが、主の経験した、恋とか言う感情なのだろうか。
……馬鹿馬鹿しい。そんな、人を愛おしいと思う感情など、必要ない。そんなもんがあったら、いくら人の死を悔やんでもきりがないじゃないか。
「……」
昼食の準備の手伝いをしながら、思う。
今此処で、こいつを殺せば、こいつを「カゲロウデイズ」内に連れ込める。
そこで、永遠にあちらにいたいともしこいつが願えば、
いや、考えるだけで馬鹿馬鹿しい。そもそも殺した時点でそんなことは願わなくなるだろう。
「……」
それより、鶏と葱の炒め物が食べたい。
なぜか鶏と葱が美味いと感じるのだ、この体は。
「いただきます」
いつも通りに、白米を主食に、こいつの作った料理を食べる。一人暮らしが長いからなのか、美味い。
「……」
食事は美味いのだがさっきの話のせいで、雰囲気が微妙に重い。……話しかけづらい。
「ねえ、クロハ」
「……ん?」
と思っていたら、向こうから話しかけて来た。
「八月の終わりにね、夏祭りがあるの。一緒に行かない?」
「……行く」
「じゃあ、明日……いや、午後にでも、浴衣買いに行こっか」
「浴衣も買うのか」
「私が着るんだから、クロハも着てくれなきゃ嫌」
「ああ、はいはい」
祭りに参加するのは初めてだ。ついでに言うと、浴衣を着るのも。
しかし、こいつも浴衣なんて着るんだな。そんなもん着ないような女だと思ってたから、少し意外だ。
「んじゃ、早めに行くか。……ごちそうさま」
「ごちそーさま」
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