第5章 5.「如月」
ふと。
のんびりと平和に過ぎようとする一日のさなかで、疑問を感じる。
「ねえ、クロハ」
「ん?」
「私とクロハがさ。一緒にいられなくなる期日って有るの?」
「あー……基本的には、30日……つまり一ヶ月間って決まってんだ」
「一ヶ月間」
「で、それが終わったら一旦女王の元に戻ることになってる」
「そう、なんだ」
別段、残念というわけではない。冴月黒刃と出会う前に戻るだけだ、さみしくもなんとも、ない。
「おいおい、なんだよその顔。まさか俺がいなくなるのが淋しいとかか?」
「……え?」
言われて気付く。窓ガラスに写った自分がとんでもなく情けない顔をしていることに。
「まー、そう心配すんなよ、彩芽。今までも一人暮らしだったんだ、これからもそうなるってだけだろ」
「そ、そうだよ。さみしくなんてないもん」
「ははは、可愛いこといいやがって」
頬をむにっと伸ばされた。
君の、細くて長い指に、触れられる。
「……だって、昨日ずっと一緒にいてくれるって言った」
「その辺は……まあ……便宜を図るさ」
「もう。出来ない約束はしないでよ」
私は少しむっとする。無理なら無理とあのとき、言ってくれればよかったのに。
「それとも、昨日のアレがお前の願いでいいのか?」
背筋がピクリと伸びる。
そういえば、彼の『能力』は、「願いを叶える」というものだった。
主の願いを叶える、蛇。
「……ううん、もう少し、考えさせて」
「それが懸命だ、そもそも、そんな願い、命を賭すには下らなすぎる」
彼はやれやれ、と言うように肩を竦めた。
「永遠を生きる俺たちと、刹那しか生きられないお前らじゃ、何かと釣り合わねーからな」
だったら、永遠の命でも願えば、彼は私と共にいてくれるんだろうか。
私が永遠の命を持つ、不老不死の化け物にでもなれば。
……なんて、そんなのは、戯言でしかないわけだけれども。