第4章 4.あなた
買い物から帰って来た後は、何の事は無い。4日目は、それまでのクロハのいなかった日常と同じように、すぐに過ぎ去る。
慣れというのは恐ろしいもので、同じ部屋に男が同居しているというのに、全く気にならなくなってしまった。
宿題をして、頃合いを見て食事を作り、二人で食べて、勉強をしたり、ゲームをしたりして過ごして。
「彩芽、そろそろ風呂に入った方がいいんじゃないか」
「ん?うん、そうだね」
時計を見れば針は10時をさしていた。確かに、そろそろお風呂に入って、寝た方がいい時間だ。
「じゃあ、先、入るね」
「おう」
私はのんびりお風呂に入って、入りながら、彼がなんなのかを考えた。
最初、彼は自らを蛇だと名乗った。
でも、彼は姿は人そのものだし、持っている感情、思考力、何を持ってしても、人に変わりはない。つまり彼は、そう言ったくくりに縛られない存在でも有るのだろう。
彼の言う「女王」というのは、やはり、彼が最初にいったとおり彼らを統括する存在、メドゥーサなのだろう。そして、彼のような存在がまだいる。
女王の新しいルールとは一体なんなんだろうか。「私と暮らす」ことが新しいルールだと、彼は言った。
ということは以前は蛇の力を分け、命の代わりとすること、それだけのルールであった可能性がある。
宿主本人は真実を知らされない。
自分が何かの力を借りて生きていることすら。
そして、何より恐ろしいのは、それがもし、蛇の自我を奪っているのだとしたら、ということだ。
……ここまでスラスラとこんなことを思えたのは、今日クロハが手にとった「サマータイムレコード」の、内容からだ。
思えばあの本は彼らのことを描いているように見えた。
ずっと前に出された、「シニガミレコード」の続編だというそれ。
周りに見てもらえない少女は、《隠す蛇》。
孤独を恐れた少年は、《盗む蛇》。
嘘つきな少年は、《欺く蛇》。
そして。
あの「科学者」こそ、そして、
不老不死の少年に取り憑いた《黒い蛇》こそ、クロハ自身ではないだろうか。
「……」
シャワーを浴びながら、考えた。
彼がああも無邪気なのは、自我を得、こちらの世界で自由気ままに暮らせるからなのでは?
「……考えても、どうにもならないか」
私は思考を打ち切り、身体を洗って浴室を後にした。
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