第4章 4.あなた
そういうわけで、それ以上特に買うものもなかったのでそのまま会計を済ませ、家へと帰った。
「ただいま」
呟く。
返事はない。だが、
「ただいま」
後ろから、もう一つ、ただいま、と聞こえる。
何と無くそれが今、嬉しかった。
「何ニヤニヤしてるんだ?」
「なんでもない」
靴を脱いで、玄関に揃え、手を洗い、うがいをする。
全て誰かと共にあるということが、何と無くうれしくて、たまらなかった。
「ねえ、クロハ」
「ん?」
「これからも、一緒にいてくれる?」
「なーにを突然。当然だろ」
普段の妙な服に着替えた彼は、愉快そうに笑った。
「ねえ、私ね、あなただけ、特別な風に呼びたいの」
「そうすりゃいーじゃねえか」
「でも、どうすればいいのかわからなくて」
「ンなの俺に聞かれてもな……二人称代名詞でも変えるか?」
「あ、それ、いいかも」
「マジかよ」
「じゃあ、……『君』って呼んでもいい?」
「好きにしろよ」
君。
いつも、二人称の代名詞は「あなた」だった。
だから、「君」と呼ぶのは、彼が初めてで、きっと彼以外は、呼ぶこともないだろうから、彼が最後だ。