第13章 appeal 枢√
いつも目が覚めれば、眩しい程の太陽が部屋を満たしていた。けれど……私が目を覚ましたのは驚くほど、黒に塗り潰された世界だった。
「おはよう、珠紀」
「……玖蘭さん?」
「枢って呼んで。そうじゃないと、もう返事しない」
「どうしてそんなことを言うんですか」
「君に名前で呼んでほしいからだよ」
見慣れない部屋だと思ったら、そうだ。ここは玖蘭さん……枢、枢の部屋なんだ……。通りで自分のベッドの広さじゃないと思った。ついにでに覚醒し始めた頭で理解したことだけど、枢はどうやら私に隣に寝ていたらしい。
うっ、これってつまり……添い寝?
「おや? どうして急に口元まで布団をたくし上げるの」
「それは……恥ずかしいからです」
「起きてすぐに、僕が居るから?」
わかっているならやめてほしいのに……意地悪だ。
「身体の調子はどう? 違和感はある? 君は本格的にヴァンパイアとして覚醒したんだ。もし何か変化があれば、遠慮なく僕に言いなさい」
「はい……えっと、たぶん大丈夫です。ただ……少し、いつもより頭の中がすっきりしていて、意識がはっきりとしている気がします」
「そう……。とりあえず、今日はここで休んでいるといい。夜間部専用の寮に、君を引越しさせる話が出ているところなんだけど、君はどうしたい?」
それは私に選択権がある話なのだろうか? 夜間部と普通科が別々の寮を持ち、門で区切られている理由を彼が知らないわけがない。秘密を知られない為もそうだけど、もしものことが起きない様に分けられているというのに。
今になってヴァンパイアへ変わってしまった私が、普通科の寮に居座れるわけがないと思った。