第12章 cage 枢√
「……っ、珠紀」
顔を上げた玖蘭さんの唇は、切れていて血が滲んでいた。
それを見た瞬間、どくんと心臓が鳴った気がした。頭の中がすっきりしていく感覚に驚く暇もなく……私の意識は少しずつ過去を遡っていく。
森、炎、両親、吸血鬼……。
「沙耶……お姉さん」
「思い出したようだね、珠紀」
「……はい」
自然と涙が零れた。それは何に対するものなのか、よくはわからなかったけど。玖蘭さんは指で私の涙を拭って、口を開いた。
「珠紀、僕と一緒においで……夜間部へ」
それが意味しているのは、私が本当にヴァンパイアだと認めなければいけないということ。そう、私……もう人間じゃないんだね。
寂しいような、苦しいような。もう優姫と一緒にご飯を食べることもない、一緒に授業を受けることも……。
――零……。
心の中にぼんやりと浮かぶ、零のこと。けれどそれ以上に、私は玖蘭さんに塗り潰されていく。少しずつ、少しずつ。
「君を傷つける全てから、この僕が守ってあげる。夜間部で苛められることがないように、他の子達にはきつく言いつけておく。僕の傍においで、もう……錐生君達と一緒に居なくていいんだよ。君は、もう人間ではないのだから」
呪いのように、玖蘭さんの言葉が入り込んでそれしか考えられなくなってくる。一人ではないのだという安心感からか、私は玖蘭さんの手に触れる。
「私……」
「大丈夫、少しずつ理解していけばいい。今の自分のこと、これからのこと、ヴァンパイアのこと」
微かに玖蘭さんが、小さい声で呟く。
「待っていたんだ……僕は」
頬に玖蘭さんの唇が落ちて、目を閉じた。
いつもより、意識がはっきりしている気がした。