第12章 cage 枢√
「あ、枢先輩……っ」
「じゃあね。優姫」
玖蘭さんはあっさり優姫の横をすり抜けて、あろうことかこちらへと向かって来る。幻? 薄らとあの眠気が私の意識に影を作り始める。あ、まずいかも。
「おはよう、珠紀。具合はどう……?」
「それが……」
その瞬間、切り取られていくかのように意識が途切れた。
もう本当に今までと同じではいられないことを、思い知った。
暖かな手の感触を額に感じた気がした。大丈夫、意識はちゃんとここに繋がっている。あとは、瞼を開けるだけ。ゆっくり瞼を開ければ、玖蘭さんの顔がすぐ飛び込んできた。この光景を見たのは、何回目だろうか? それさえも、何処か曖昧になり始めている。
「気が付いたみたいだね……君は酷く保健室が気に入っているみたいだ」
「まさか……そんなはず、ないじゃないですか」
好き好んでこんな薬品の匂いだらけの場所にいたがるのか。
『思い出して、珠紀ちゃん。自分の……自分のあの日を』
頭の中で、誰かの声が響いた気がした。急激に断片的な映像だけど、脳裏に過った。ああ、頭が痛い……。
「まだ辛そうだね。体調が悪かったのかな」
「いえ……っ、その……今日は今までで一番ナルコレプシーの症状が出る感覚が、短くて……まともに起きていられないんです」
「……それは朝から?」
「はい……」
「そう、時間がないんだね」
「玖蘭さん……?」
玖蘭さんは私の頬を撫で、そのまま首筋へと指を滑らせる。驚いて瞬きを繰り返して、彼を見つめる。何を、するつもりですか? そう問いたかった。