第11章 inorganic 枢√
「僕にも詳しくは理由がわからない、ただ……君を診察した医師からは、君が今までの元人間の子達とは違うケースかもしれないと言われたくらいだ。それが何を意味しているのか……わからなかったけど」
「その医師の人と、話は出来ないんですか?」
「僕もそうは思ったんだけど、別の病院に転移してしまったみたいで。しかも他の人達には何も告げずだぞうで誰も何処へ行ったのかさえわからないらしい」
つまり、ある意味振り出しに戻ったような感じなわけだ。
「私は……ヴァンパイアなんですか?」
もう一度確かめてみる。ううん、本当はそんなことしなくても、ちゃんとわかっているつもりなの。でも怖い、認めることが……怖い。
玖蘭さんが私の肩をそっと抱いた。
「それは、枢君に聞くのが一番正しいと思うよ」
玖蘭さんへと視線を向ける。目が合うと、彼は困ったように眉を潜めて……けれど私の頭を優しく、いつものように撫でながら告げた。
「ごめんね……珠紀は、受け入れたくないかもしれない。でも、君は……ヴァンパイアだ」
玖蘭さんの口から聞くと、急激に全てが現実味を帯びていく。逃げられない……私が忘れてしまった過去は、私がどうしても忘れたかったから? 両親の死を忘れてしまうくらいに、私はこの事実をなかったことにして、全部忘れて生きていたかったの?
不安で俯く。それでも撫でる手を、玖蘭さんは止めたりしない。
「珠紀……」
暫くして、玖蘭さんは私をぎゅっと抱きしめた。ああ……彼のぬくもりを感じるだけで、何処か安心する。
「僕が君の代わりに、君がヴァンパイアであることを受け入れる……」
「それに、一体何の意味があるんです」
気休めにもなりはしない。そう思えた。でも玖蘭さんは「そんなことない」と言って、抱きしめる力を強めた。
「珠紀一人に、背負わせたりしない……その十字架を」
ヴァンパイアになってしまったことは、罪なのだろうか? そしてこの痛みは、罰なのだろうか。過去を忘れてしまった私への、戒めなのだろうか……。
口内に未だ居座り続ける鉄の味が、美味しいと感じてしまったのを……。
私はどうしても、認めることが出来なかった。