第11章 inorganic 枢√
「こ、来ないで……っ」
「次に目が覚めた時……貴方が見るのは、地獄か天国か……どこかしら?」
「……っ、うわぁあああああああッ!!」
血の海が広がる。鮮明な赤が。
むせ返るような香りの中、音を立てて何もかもが朽ち果てていく。珠紀も、女性も、その瞬間何が起きたのかさえ互いに理解することなく、血の海に二人は沈んだ。
「……っ! そこにいるの……? おいっ!!」
一人の男性が刀を片手に、駆け寄る。その光景を目の当たりにし、あまりに悲惨な姿に思わず顔を背けた。
「嘘……でしょ」
男性は珠紀の手を握る。酷く、冷たい。
「……」
彼の視線は、珠紀から同じく倒れている女性へと向けられる。
「純血種……沙耶」
彼はそうして、珠紀の頭を撫でた。これから起こること、やろうとしていることを考え珠紀にそれに対する許しを乞うように。
「死なないで。お願い……もう一度、僕に……笑いかけてよ」
男は珠紀の首筋に、牙の痕を見つけながら。
◇
理事長は一通り話し終えると、また息を吐いた。
「そして君はすぐに、その男性の手により特別な病院に搬送された。幸い大きな損傷もなく……君は、長い長い眠りの果てに病院で目を覚ました。その後は……もう覚えているね?」
「その……男の人は?」
「わからない。僕が駆け付けた時には、病室で静かに眠る君がいたことくらい」
「じゃあ、私はその人に噛まれて……ヴァンパイアになったんですか? 零と、同じように」
「……同じ。いや、君の場合は少し違う。それは君が一番よくわかっているんじゃないのかな? 今までに酷い渇きに魘されたことはないかい?」
「いえ……ありません」
あの病院から、私の記憶は始まる。けれど今までに酷い渇きに苛まれたことはないし、本当に今回が初めてだったと言える。そのままを理事長に伝えると、やっぱりという顔を見せた。