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Bloody Signal

第11章 inorganic 枢√



「あれは……少し肌寒くなり始めた頃のこと」


 忘れたはずの私の記憶。理事長の言葉で、少しずつ鮮明に蘇っていく……あの日の、私が。




 ◇





「……はあっ、はあっ」


 少女は走る。乱れる息も、僅かに肌に張り付く髪さえもなりふり構わず。このまま足を止めてしまえば、全てが終わる気さえした。木々の間を潜り抜け、森のような世界を駆け抜けていく。


「んっ、はあっ……はあっ」


 心臓の音がどんどん大きくなる。このままいつか、破裂してしまうのではないかとさえ思うほどに。


 夕陽が沈む、夜が落ちてくるみたいに。すぐに闇は背中を追い越し、少女の身体を包んでしまうだろう。そうなる前にと……――少女はひたすら走った。


「……は、んっ、はあっ」


 少しだけ冷えた空気が少女の肺に入り込み、そのあまりの冷たさにむせてしまいそうになる。それさえも我慢しながら、尽きてしまいそうな息をなんとか繋ぎ止める。


 振り向く余裕などない。もしあるとしても、少女はけして振り向かないだろう。

 走る。走る。ただ、ひたすらに。


 そうすれば、いつか終わりが来ることを信じて。


「はあっ、もう……駄目っ」


 今にも少女の足は縺れそうになる。脳裏に浮かぶのは、無残な現実だけ。


「お父さんっ、お母さん……っ!!」


 走りながら、少女の瞳からぽろぽろと涙が溢れ出す。


「どうしてっ……なんでっ、誰に……! 誰が殺したのっ!!」


 酷き混乱していた。けれど、足を止めたら捕まってしまう。少女の両親を殺した……"犯人"に。

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